第一回読書会会議 選書編


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2011年12月29日に第一回を開催した読書会会議のログを公開していきます。
アルコールとタバコの煙が漂うちょっとやさぐれた感じで良い会議でした!

まず、選書編を。今回は5名の選書です。
もうしばらく待つとたぶん座談会編がアップされる予定。
そして、今回決定した課題図書の発表とその書評たちが公開されていく、はず!!

 

☆北原しずくさんのセレクト

 

 

・『オテル モル』(栗田有起 著 集英社文庫)
・『蝶の皮膚の下』(赤坂真理 著 河出文庫)
・『シュガータイム』(小川洋子 著 中公文庫)
・『薬指の標本』(小川洋子 著 新潮文庫)
・『葬儀の日』(松浦理英子 著 河出文庫)

 

蝶の皮膚の下 (河出文庫) 主に小説に限ったことなのですが、私が本を読む目的が、逃避のために読むものなので、少しだけ自分に近いところがあって、けれどもどこか完全に自分とは違うもの、という作品を求めています。それは話のテーマであったり表現であったりするのですが、今回紹介する赤坂真理さんの作品は、特に表現に注目したものです。普段の会話ではありえないような言葉のつなぎ方や、単語の選び方をしているんですね。ストーリーを追って楽しむ、という方向にはなかなか持って行きにくい、と感じるくらい、鋭い言葉の使い方です。意味を考えて読んで楽しむといったものではないですが、非常に綺麗な言葉ばかりで、とても勉強になります。

葬儀の日 (河出文庫―BUNGEI Collection)  松浦理恵子さんの作品は、初めて読んだのが、高校の時の模試だったように思います。『セバスチャン』が載っていて、どハマリしました。笑 『葬儀の日』も好きで、泣き屋とか笑い屋というのが出てくるんです。普段の生活の中でたぶん私たちも無意識にしている行為だと思うんですが、それを職業にしているという。何か違和感があって、一歩トチ狂ったところがいい。

 

オテル モル

『オテル モル』。就職難でなかなか働き先が見つからなかった女の子が、ホテルのフロント係として就職をするんですが、そこは「眠るためだけのホテル」なんです。眠るのに最適な、完璧な室温、調光。面白いのは、フロントの人の行動や感情が、各部屋に影響するんです。例えば主人公が眠気を覚ますためにガンガン音楽をかけて踊り狂っていたりすると、朝起きてきたお客様が皆つやつやしてて、変な薬をキメたような表情をしている。
私、これを不眠症の時に読んだんです。あり得ないけれど、こういうホテルがあったらいいなって。そうしたら、秋葉原駅(ほぼ)直結のホテルのコンセプトが、眠りに特化したホテル、ということを聞いて、テンション上がりましたね。現実にあるじゃん! みたいな。笑

シュガータイム (中公文庫) 『シュガータイム』は平たく言ってしまうと過食症の女の子の話です。これは話自体も穏やかに狂っていて良い感じなのですが、深夜のスーパーマーケットで主人公が手紙を読む場面があって、その部分の描写が素晴らしい。缶詰が整然と並んでいて、きらきら光りながら自分の両側にそびえたっている。無機質で孤独な空気。私にも分かる感覚っていうのが詰まっていて、ちょっとずつ自分の日常にフィードバックできるところが、不安定なだけの小説でなくしていて、お勧めです。

薬指の標本 (新潮文庫) 『薬指の標本』も、迷い込めばあるかも、いやいや絶対ないだろうなっていう、世にも珍しい標本屋の話です。自分の標本を作ってくれるんですが、題材は歌でも思い出でも、形のないものでも標本にしてくれる。靴好きの私としては、ストーリー展開のキーポイントとして、執着的に靴が使われているのも良かった。

これはフランスで映画化もされているんですけれども、まだ観てないんです。音楽も素晴らしいようなので、観る日が楽しみです。

今回選んだ本は「あったらいいな」の美文ですね。絶対ないんだろうなあ。

 

【北原しずく(きたはら・しずく)】(@cuww)
東京女子大学現代文化学部卒。20代独身メス負けそう組。広告会社を皮切りに、ころころ職を変え続け、現在は毛糸業界に身を潜める一方で、金の稼げない物書き業を営む。エログロ純文学万歳。人生に素敵な出会いが多いのが自慢。好きなものは、90年代アニメーション、説教系女性コミック、馬鹿映画と雰囲気映画、感じの良い殿方、感じの悪い御婦人。あと納豆。一日1パックはかたい。甘めの攻めでお願いします。

 

☆赤木智弘さんのセレクト

 

 

・『ラーメンと愛国』(速水健朗 著 講談社現代新書)
・『私たちはこうして「原発大国」になった ー増補版「核」論』(武田徹 著 中公新書ラクレ)
・『困っている人』(大野更紗 著 ポプラ社)』

 

ラーメンと愛国 (講談社現代新書) 一冊目は速水健朗さんの『ラーメンと愛国』。ラーメンは日本でのチキンラーメンから最近の和風テイストのものも含めて、パトリオティズム、つまり愛国心と如何にシンクロしているかということを書いています。元々、日本でラーメンの需要が生まれたのは戦後なんだけれども、その頃はなかなか米が手に入れにくくて、小麦粉がある程度流通しているような状態だったんですね。そこでラーメンというものが食べられ始めて。日清がインスタントラーメンというものを発売したり。そのインスタントラーメンを作る上で必要だったのが工業化、つまり沢山作ること。そこがアメリカ的な工業化と結び付いている事に始まり、戦後日本の発展とラーメンの受け入れられ方が、極めて密接に結びついているっていうお話です。

私たちはこうして「原発大国」を選んだ - 増補版「核」論 (中公新書ラクレ) 2冊目は武田徹さんの『私たちはこうして原発大国を選んだ』です。この本は3.11以降に加筆されたものなんですけれども、本自体は前から出ていてその改訂版です。日本人が原発というものをどのように需要していったか、ということをみて、いわゆる戦後の日本の成長のあり方と結び付いている、と。そうしたものと原発の問題は不可分である、ということを示しています。

 

困ってるひと 最後に、3冊目は、『困っている人』、ですね。この本は2011年にかなり話題になったんだけれども、その一方でたぶん一番よく中身が読まれていない本なのではないかと思います。割と中身は重要なことが書かれているんだけれども、それをすっ飛ばして、難病でも頑張っていて、ちょっと恋愛テイストのものを書いている、と。文体の口当たりが良いだけに、すっと流されてしまっているような印象を受けます。この本は今一度、読み直してみたいと思いますね。
この3冊を選んだのは2011年の日本を象徴する本かなっていうことです。それは決して2011年だけの問題ではなくて、この年を象徴することはこれまでの日本の有り様を示しているのではないかと。

 

【赤木智弘(あかぎ・ともひろ)】(@T_akagi)
1975年8月生まれ フリーライター。長きにわたるアルバイト経験を土台に、非正規労働者でも安心して生活できる社会を実現するために提言を続けている。『若者を見殺しにする国』(朝日文庫)。『当たり前をひっぱたく』(河出書房新社)。

 

☆鈴木春香さんのセレクト

 

 

・『不幸な子供』(エドワード・ゴーリー 柴田元幸 訳)
・『経験な幼子』(エドワード・ゴーリー 柴田元幸 訳)
・『綺麗になる古典美人道』(大塚ひかり 著 小学館)

 

私は本を実家に置いてきていて今回、図書館で慌てて借りてきたんですけれども。

不幸な子供モンテッソーリ教育を受けた子どもたち---幼児の経験と脳 エドワード・ゴーリーさんのお話は、子どもがさらっと死んじゃうところが好きで。私は本とかあまり読まない方なんですけれども、内容とかよりどう伝えるかっていう。文字を通してどう伝えるのかっていうところがすごく気になっていて。この人は絵も自分で書いているんですけれども、すごく人がさらっと死ぬというかすごくいさぎいいんですよね。絵本なんですけれども、伝え方がすごく短くて、自分が勝手に思っていたのが、短い言葉でも人の心に入っていくようで。すごく軽やかな感じなんですね。そういうのがすごく好きですね。

綺麗になる古典美人道 あと、大塚ひかりさんの『綺麗になる古典美人道』。これは昔の美容法と今の美容法を照らし合わせて書かれているんです。例えば、色白にするために石けんを塗りたくったりして、それで瞬間的に色白になるとか。そういうのをすごく必死にやっているんですよね。大学に入って周りに綺麗な人ばかりだったんですね、ほんとに。それで焦ってこれをすごく読んだんですけれども。今回、書評を書くということだったので、男の人からみた化粧っていうのがすごく気になって持ってきました。

 

 

【鈴木春香(すずき・はるか)】
1991年4月30日生まれ。多摩美術大学油画科。
最近、綺麗になることに必死。
でも鏡を見るたび、必死でこれか、対して変わってない…って実感する毎日。
お酒すきすき大好き!

 

☆時沢潤一さんのセレクト

 

 

・『他者と死者 ラカンによるレヴィナス』(内田樹 著 文春文庫)
・『脳のなかの幽霊』(V・S・ラマチャンドラン、サンドラ・ブレイクスリー 著 山下篤子 訳 角川文庫)
・『居住の貧困』(本間義人 著 岩波新書)

 

僕は最近引っ越しをしてですね。まだ段ボールの中に本があるような状態なんですが、開けた段ビールの中から持ってきました。読んでない本も一冊あるのですが。
他者と死者―ラカンによるレヴィナス 一冊目はそのまだ読んでない内田樹さんの『他者と死者』っていう。この人、この前、本気になってレヴィナスで3冊本を出していて、その文庫落ち。普通の人にも難解なことを理解する気持ちを持ってほしい、と。そりゃあ、ラカンとかレヴィナスを読んでも普通の人はわからん。でも、わからないことを読んだことで得られることがある、というレトリックをやっていて。まだ全部読んでいないんだけれども、それが上手くいっているのかちょっとみてみたい。だんだん世の中はわかりやすい方に流れてて、「でもその風潮は結構やばいんじゃない?」という問いかけをしています。たぶん、もやもやした感じに持っていかれるんだと思うんだけれども。

脳のなかの幽霊 (角川文庫) これはずっと日本語になってこなくて、英語では有名なんだけれども、『脳の中の幽霊』っていうのがあって。これは人間の認知とか当てにならないんだよ、っていう本ですね。主知主義的に人が論理的に考えていくことで世界を掴んでいこうって流れがあるんだけれども、「いやいや、そんなに甘くないよ」っていう。まあ、現象学とか身体性みたいなところにはいかないで、あくまで、生理学的に。何故か日本語に長らくならなくて、ずっと待ってましたね。

居住の貧困 (岩波新書) あと、もう一冊は本間義人さんの『居住の貧困』。社会派の本なんだけれども、人間、暮らしていくためにはなんだかんだといってもお金が必要だっていうんだけれども、とりあえず食い物は安くなったし、日本では住居が一番シビアなんじゃないかということをどう考えていくのかっていう。その辺はみんな分かっているようで分かっていないと思いますね。家賃相場が適切なのか、とか。そういうことが書いてあるちょっと硬めの本ですね。

安心社会から信頼社会へ―日本型システムの行方 (中公新書) 今回、本当は小説とか持ってきたかったんですけれども、その段ボールの中にはなくてですね。あと、読みたいなと思ってたんだけど結局見つからなかったものとして、中公新書で『安心社会から信頼社会へ』だったかな。そういう名前の本があって。まあ、社会心理学の山岸俊男っていう人が、社会が成り立つ時に、安心で成り立つ社会と信頼で成り立つ社会があると。これ、世の中の人は同じような言葉と考えているんだけれども、真逆だよっていう話をしていて。元の本はもう10年以上前に出てるんだけれども、新書判がその2年あとくらいあとに出て。
安心社会っていうのはヤクザ型の社会で、裏切ったらお前殺すぞ、と。そういうのは絶対裏切らないから安心できる。それに、信頼社会っていうのは、裏切るかどうか分からない可能性の中で、信頼というものにある種、人生を賭けながらやっていく、と。言葉のイメージが随分変わるんですね。安心というと何か守られてて安全っていうイメージだけれども。信頼だったら絆で、みたいな。そんな感じであります。

 

【時沢潤一(ときさわ・じゅんいち)】(@thequedotinfo)
音響カプラの頃からネットの住人。サンデーネット(x68ユーザの巣窟)とかNiftyの頃が最も楽しかった(という世代)。本そのものよりも本をネタにあれこれ話すのが好き。小説から思想書、ビジネス書も取扱説明書も読む。やや活字中毒。「なぜこの人はこのように考え、あの人はあのように考えるのか」というのが基本目線(興味)。グランドセオリーにはあまり興味なく個々人の抱える「事情」が好き。もっとも好きな小説はたぶんNicholson Bakerの”The Mezzanine”。

 

☆insideriversのセレクト

 

 

・『未知との遭遇:無限のセカイと有限のワタシ』(佐々木敦 著 筑摩書房)
・『絶望の国の幸福な若者たち』(古市憲寿 著 講談社)
・『神様 2011』(川上弘美 著 講談社)
・『困っている人』(大野更紗 著 ポプラ社)
・『女子をこじらせて』(雨宮まみ 著 ポット出版)

 

今回僕がセレクトしたのはこの5冊です。最近の新刊で、これらの本をきっかけに奥行きのある議論が展開するようなものを選びました。あとは、基本的には私小説的なスタンスのもの、ある特定の個人から観た世界を垣間みることのできるものです。

未知との遭遇: 無限のセカイと有限のワタシ 佐々木敦さんの『未知との遭遇』であれば、これは一種の運命論の話なんですね。ここで展開している運命論から自分自身の運命論を考えていくきっかけになってくる。議論の大きなプラットホームとして機能するポテンシャルを有していると思います。非常に取っ付きやすい文体で書かれていることもあり、とても行間の広い書籍だと思うのですが、その隙のようなものが複数人で読むのには適しているかなぁと。

絶望の国の幸福な若者たち 次に『絶望の国の幸福な若者たち』ですが、これは若者論ですね。例えば、若者は可哀想だ、とかステレオタイプな先行世代の若者論を更新しようという試みです。ここでも共感するところと問題点、そのどちらも抽出しやすいのでないか、と思います。

 

神様 2011 川上弘美さんの『神様 2011』は、1993年に発表された作品を2011年3月11日以降に書き直す、という試みです。あるできごとがどのように見えてくる風景や生活に影響を与えるのか。「日常」がどのように変化していくのか。これも僕たちの経験と照らし合わせながら考えることのできる本なのではないでしょか。

 

困ってるひと 『困っている人』は闘病記ではあるんですけれども、文章にほとんどといって悲壮感がありません。闘病を日常の延長として描いています。そこで、現在の社会においてカバーできていない問題と対面しそれを記述することに成功しています。普段見えにくい社会的な問題を可視化する手法として素晴らしいと思います。とりあえずは健康な自分とも地続きであるって感覚を持てるエッセイです。

 

女子をこじらせて 最後に、『こじらせ女子』ですが、この本に関してはtwitterで長野明さんが「あなたたちをこじらせたもの、こじらせなければ年齢をかさねられない価値観について焦点あてていこうよ。」とツイートしてて、それに共感。変えることのできるものとできないものについても考えてみたいと思いました。

 

 

 

【insiderivers】
文化批評。表象・メディア論、及びコミュニティ研究。
出版レーベル「未来回路製作所」主宰。企画・編集・執筆。

 

(了)

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