インタビュー「『面白い!』を追求して見えてくる風景」(short version) 蔵前 仁一

この記事の所要時間: 518

バラナシ

 

※本インタビューは、全体の3分の1くらいのダイジェスト版です。
フルバージョンは2013年4月28日発売の『未来回路5.0』に掲載予定。

−− 今度、蔵前さんが最初にインドを旅行してから、雑誌『旅行人』を立ち上げ休刊するまでの30年間を単行本というかたちにされるとお聴きしました。その本を書いている中で何か新しく発見されたことなどありますか?

 そうだねぇ。まぁ、特に新しい発見というのはないんだけれど、来し方30年を振り返るなんてことは今までしたことがなかったんだよね。それで、昔のことを色々「ああ、こういうことがあったんだな」とか思い出しはしたね。

 例えば、僕は最初、漫画家になりたかったんです。子どもの頃から漫画ばっかり描いていたし、大学では漫研に入っていた。けれど、漫画家にはなれなくて。それでイラストレーターとグラフィックデザインの仕事をやっていたんですね。それを一度やめてインドに旅立った。そして、そんな旅行を繰り返してきた。その後、自分で出版社を立ち上げたんですね。

 そういう繋がり方に意味だとかは特にないんだけれども、例えば、漫画を描くということと旅することは、一般的にはほとんど関係がないでしょ。でも「旅行人」を作る時に、イラストが描けるとかグラフィックデザインができるっていうことはすごく強い武器になったんですよ。あと、小さい頃から同人誌を立ち上げたりして、そういうのが好きだったし。

 

−− この前、神楽坂でインド先住民アートの展示をされていましたが、そこに興味を持ったきっかけのようなものって何かおありですか?

※「インド先住民アートの世界
Art of Adivasi 旅行作家・蔵前仁一コレクション」
http://www.kagurazaka-kourintei.com/?p=2465

Wall Art Festival 2011

 インドを旅しだした最初の頃、カルカッタで物売りが来て、変な絵を売りつけにきたんですよ。それがすごく変な絵でね。下手なのか上手いのかよく分からない。何だかよく知らなくて、断っていたんですね。けどさ、何かずっと記憶に残っててね。

 それで、デリーに行った時にまた同じような絵を見つけたんだよ。なんなんだろうって思って、一枚買ってみた。それが最初の出会いですね。でもその時はまだインターネットとか何もない時代で、それがなんであるかは全然分からなかった。ようやくそれがミティラー画だっていうことを何かの本で調べて知って、それを『ゴーゴー・インド』に載せたんですよ。

 それから何年も何年も経つんだけれども、ミティラー画っていうものをインターネットか何かで調べた時に、それで新潟にミティラー画美術館っていうのがあるのが分かったんですよね。そこに観に行って色々教わったの。それで早速、雑誌『旅行人』でインドの民俗画の特集を組もうと思って。その取材を兼ねて行ってみたわけ。

 それで、色々な人に原稿を書いてもらった。そして、原稿をもらってそれを読んでいたら、その内容が自分の意図を遥かに超えてたんですね。

 ミティラー画っていうのはヒンドゥーなんですけれども、インドの民族の中にはヒンドゥーよりもっと古い先住民の文化があるって原稿に書いてあったんです。ミティラー画の中にも一部混在していると。それを読んでびっくりしてさ。「これは面白い!」と思って。それを現地に探しに行ったりするようになったわけですね。

 自分が人に原稿を頼んでそこから知ったんです。それ以外に日本には文献がほとんどなかったんだよね、たぶん。だから、出会いようがないんだよ。たまたま頼んだ先生たちが、そういう専門家だったので面白い原稿が揃ったんです。

 そうするとさ、今まで見てきたインドが全然違うように見えてくるんだよね。それがすごく面白かった。今はインドといえばヒンドゥーの世界だけれども、その古層にそういう文化があって、それがまだ現在でも息づいているという。

 

−− そういう隠れた古層を見つけたり探索したりとか、そういう興味の持ち方っていうのは蔵前さんの旅の基本にあるのでしょうか?

 最初の頃は旅行に出るとさ、よくわからないからガイドブックを読んで、名所・旧跡をみてさ。そういうのしか分からない。つまり、自分の視点がないわけだよ。そういう時期も随分長かったんだ。だけど、何でもいいんだけれども、例えば、農業をしている人だったら植えてある作物を見て僕たちだったら気付かないような発見をインドでするわけじゃない。そういうのが自分の視点なわけだよね。それがあるとやっぱり全然面白さが違ってくるよね。

 例えば、僕なんかグラフィックデザインをやっているから、インドでマッチのラベルとかそういうのをいっぱい集めたよ。自分はデザインとかアートに興味があるので。

 あと、何かのコレクションをしている人だったら、僕の友達に口琴が好きな人がいるだけど、彼だったらインドに口琴を探しに行ったりとか。古布をコレクションするとか。そうすると、同じインドに行くのでも全然違うところに行くようになるんだよね。そこに口琴や古布があれば行くわけだから。他の人からすれば変なところに行ったりするわけですよ。

 他の例を挙げれば、うちが出した本でアメリカの鉄道の好きな人がいて、鉄道の写真を撮りに行ってきてそれで本を作ったんだよ。それでさ、原稿に書いてある場所をGooglemapかなんかで確認するわけだよね。そうすると、本当に何にもないところなんだよ。砂漠の真ん中で、鉄道しか通ってないようなところ。絶対行かないよ、普通の人は。でも、鉄道に興味があるとそういうところに行っちゃうんだよね。そういうの、面白いなって思う。まぁ、買い物したいっていうだけでも結構違うんじゃない? ブランド物じゃダメだけど(笑)

(了)

 

【蔵前 仁一(くらまえ・じんいち)】

編集者、作家、イラストレーター、グラフィック・デザイナー。
主な著書に、『新ゴーゴー・インド』、『新ゴーゴー・アジア(上下巻)』、『わけいっても、わけいっても、インド』などがある。
2011年12月、23年続けた雑誌「旅行人」を休刊。

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