「経営学は人生や生活の研究でもあるのではないだろうか」、『新しい市場のつくりかた』(三宅 秀道 著)

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新しい市場のつくりかた

著者の三宅さんは経営学者で、専門は製品開発論、中小・ベンチャー企業論。現在、研究だけでなく、企業・自治体・NPOとも共同で製品開発の調査やコンサルティングにも従事しておられるという。

本書を読んでいる途中で気付いたことなのだが、私は三宅さんに何度かお会いしたことがある。もう何年も前の話になるが、私が早稲田のとあるフリースペースのスタッフをしていた頃、一緒にスタッフをしていた某氏の知人が三宅さんだったのだ。それで、たまに遊びに来てくれていた。

最後にお会いしたのは、三宅さんが大学の専任講師になられた直後だったと記憶している。このような形で再びお会いできたことをとても嬉しく思った。お元気そうでなによりです。

さて、本書はタイトルのとおり、「新しい市場のつくりかた」についての本だ。新しい市場を作るためには価値の創造が不可欠であり、それは文化の開発でもある、というのが内容の核となっている。

特に日本が持つと言われる「技術神話」の打破が必要であると述べられており、「技術神話」による「技術的な差別化」は主に市場の「育成」や「拡大」のフェーズを担っているものであり、新市場の「創造」のフェーズでは最重要ファクターではないとしている。新しい市場をつくるには、新しい文化や生活習慣、ライフスタイルが必要で、それらはいうなれば暮らしの「文化的な差別化」なのだ。

そして、「新しい文化」を開発するにあって、その出発点となるのが「新しい問題」の開発である。

個人的に興味深かったのは、著者が「新しい問題」につながりそうな状況について述べているところだ。現象的にも概念的にも混乱した、混沌とした状態。そうした混沌こそが整理されていくことで、新しい可能性を生み出す母体となるという。

ここで、著者に何度かお会いした場所での日々が思い出される。何者でもなくただ道を見失ったような人々が集まる場所での日々。あの場所は確かに現象的にも概念的にも混沌としていた。本書は、私にとってのスタート地点を再確認するような内容でもあった。

「弱者にとっての妥当な戦略」の模索、本書の問題意識はそこから始まっている。これを「新しい道を見つけるための道しるべ」とすること。手触り感のある、読み手の人生までも見据えるような文体は、ドライな経営学が流行りがちな今の風潮の中では異彩を放つものだろう。

経済学もまた文化研究でもあるならば、経営学は人生や生活の研究でもあるのではないか。そのような問いがまた私の中に再帰してきた。きっとその問いは普遍性にたえるものなのではないだろうか。

(了)

【中川康雄(なかがわ・やすお)】
文化批評。表象・メディア論、及びコミュニティ研究。
インディーズメディア「未来回路」主宰。
Twitter:insiderivers
個人ブログ:http://insiderivers.com

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