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日本人はこれから何を買うのか? 「超おひとりさま社会」の消費と行動 (光文社新書)

現在、日本人のライフスタイルとそれに伴う消費傾向が大きく変化してきているという。本書は様々なデータから、その変化のあり方を分析し、今後、どのような市場が必要とされるのかを述べている。

本書が多くのデータから導き出したこれからのライフスタイルと消費傾向は「おひとりさま」という言葉に集約される。

この「おひとりさま」になっていく傾向は高年齢層に限定されたものではない。ここでの前提である「おひとりさま」化、個別化、孤独化の傾向というのはある特定の年齢や性別に限ったことではなく、この日本社会全体の中で起こっていることなのだ。今、日本社会において顕著になってきている変化の特徴のひとつは、老若男女それぞれの傾向が似通ってきているということでもある。

さて、その「おひとりさま」化された社会では生活全体に「ケア」の必要性が増してくる。「ケア」というと老人向けのサービスを連想されやすいだろうが、ここではもっと広義の意味で使用されていて、「おひとりさま」であっても地域生活が成立しうるインフラやサービスのことを指している。

そのような状況の中で伸びていく可能性があり、また必要とされている市場はどこなのであろうか。本書ではそのひとつを「コミュニティビジネス」であるとし、企業自体が地域コミュニティを作り直すことに貢献するようなことが必要とされてくる、というのだ。

例えば、シェアハウスによるコミュニティ作りもその活動のひとつとして挙げている。それがさらに、地域コミュニティにも接続するような仕組みが今、構築されている途上であり、ここで示されているビジョンは街自体が「シェア型」となるところまで展開されている。

しかし、ここでひとつの疑問が浮かび上がる。それは「おひとりさま」の状態であることを引き起こしている要因についての考察や試行錯誤も可能なのではないだろうか、という疑問だ。

たとえば、「おひとりさま」現象と関連のあるであろう「少子化問題」に関しても、ただメンタリティの変化だけで片付けることはできないのではないだろうか。そのように形作っている経済や制度的な背景というものが存在し、それらはある程度、人為的に改変することができるのではないだろうか。本書ではそれをあまりにも自然現象のように捉えすぎているという印象も受ける。

そういえば最近、知人が大きめのシェア型の物件に住み始めたらしいのだが、そこではカップルの成立率は異様に高いということを聞いた。その知人は女性なのだが入居した直後、驚くべきスピードで恋人ができている。しかも、そのようなケースは彼女だけではなく、そのシェア物件自体、カップルが成立する率がとても高いというのだ。少し前までシェアハウスが少子化対策の1つにもなり得るという主張はちょっとした笑い話みたいに考えていたが、それは結構ありうることなのではないか、と思うようになった。

何故ならば、やはりカップルたちが次に考え始めるのは、結婚や出産、子育てについてであろうことが容易に想像されるからだ。

つまり、何らかの経済的、社会的、制度的な理由によって自分の願望を断念し、結婚することや子どもを作り育てることが阻害されている層が大きくなってきていることから、「おひとりさま」いう現象が加速している側面があるのではないだろうかと思うのだ。

これから「シェア型」の社会になっていくとしても、たとえ「おひとりさま」を前提とした社会となっても、次の世代に繋いでいけるサスティナブルな社会設計が必要になってくるのではないだろうか。そして、それは市場だけの力ではなかなか難しいかもしれない。ちょっと辛口な言い方をすると、そんな読後感を抱いた。

(了)

【中川康雄(なかがわ・やすお)】
文化批評。表象・メディア論、及びコミュニティ研究。
インディーズメディア「未来回路」主宰。
Twitter:insiderivers
個人ブログ:http://insiderivers.com