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この記事の所要時間: 244

ウェブ社会のゆくえ―<多孔化>した現実のなかで (NHKブックス No.1207)

基本的にどこにいてもウェブに接続可能な状態となった社会、つまり、ウェブ社会が今後どのような方向に進んでいけばいいのか。本書はその大まかな行き先のイメージを提示している。

サブタイトルにもなっている「〈多孔化〉した現実」とは、現実空間に情報を出入りする穴がいくつも開いている状態のことをいう。分かりやすく言えば、スマホやPCなどの情報端末の一般化が前提となっている社会状況のことである。そのような状況だとひとつしかない物理空間に複数の意味が流入してくることになる。そうなってくると、物理空間はひとつしかないので、その空間をどのように意味付けるかを巡って「政治」が発生するのだ。現代社会における様々なレベルでの「空間」と「情報」との葛藤や対立を、主として社会学の観点から観測・記述することが本書の目的の1つ。

そして、その現場分析から、多孔化、穴だらけでバラバラになっている現実を多様性を維持したまま「束ねる」ことへの思索が開始される。そこに立ち現れるキーワードは「共同性」である。

空間的には「地域の共同性」、時間的には「継承される共同意識」を如何にして作っていくのか。そのための思索が本書のなかで展開していく。「聖地巡礼」「観光」「喪失の共同体」などなど。忘却の構造や共同体の仕組み、共同性というものがどのように生まれるのかなど様々な考察を繰り広げながら、いかにしてこの社会を「束ねる」ことができるのか模索していく。

そして、本書の結論として3つの道が提示されている。

①社会における記憶の継承を断念し、そのような願望を個人的に持つことは構わないが、それはあくまで当事者の気持ちを鎮めるために行われるものにとどめ、社会政策上の意味を持たないものにする。

②死者に向けられた語りの場所、公的な式典を可能な限り温存しようとする近代主義的な立場。

③多孔化していく現実の空間全体を上書きするような情報で、実際には風化していく空間を、あらためて儀礼化する。

著者はこの3つ目の道をウェブ社会のゆくえとして重視している。このウェブがあることが前提となった社会において、新たな空間が生まれたと同時に、新たな方法も生まれているということなのだ。ウェブによって人びとが分断されたのならば、その情報を上書きしそれを紐帯とすること。結果、以前の社会よりも理想的な共同体を生成する可能性すら示唆されている。

現場を分析し、その問題点を指摘し、懐古主義に陥らずに過去に学びつつ、新たなツールを使用して解決案を提示すること。そのような堅実な振る舞いが、著者にとってのこの「いまここ」に生きる者としての責任の果たし方なのだろう。つまり、本書はそのタイトル通り、ウェブ社会の今後のゆくえをわかりやすいながらも抽象度の高いかたちで予見しているのである。読者はその提示されたイメージを頼りに、手探りで実験を続けていくことが求められるのではないだろうか。

(了)

【中川康雄(なかがわ・やすお)】
表象・メディア論、及びコミュニティ観察。
インディーズメディア「未来回路」主宰。
Twitter:insiderivers
個人ブログ:http://insiderivers.com

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