「シンクロニシティとアジテーション、そして欲望される謎の先にある物語。」、アニメ『進撃の巨人』(原作:諫山創、監督:荒木哲郎)

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1、引き出されるポテンシャル

 

今から半年くらい前に、原作の漫画を読んだ。その時にはすでに話題になっていた作品だったのだが、目を通して得た感想は、「社会に存在する不安や恐怖などのイメージを上手く借用することで、感情移入やリアリティを作り上げることに成功している作品」、というものだった。その当時の最新刊あたりの巨人の謎が少しずつ明らかになってくる展開には関心を持てたが、不安や恐怖を喚起させるイメージはステレオタイプなもののように思えた。だからこそ広く波及するわけだが、例えば、外国人や障碍者などのマイノリティのように、自分にとってよく分からないものに付きまとう素朴な負の感情が基調にあるような印象を持ったのだ。つまり、既存のイメージを作品中に取り込み活かしているが、それが何らかのイメージを更新したり拡張したりするような手応えを、その時は持つことができなかったのだ。

けれども、アニメ化されたこの作品を観始めて、この作品への印象は一変することとなった。そのスピード感や演出が、原作に内在していたもの、原作に目を通した時には捕捉することのできなかったものを、アニメーションという技術が引き出しているようにみえた。「生命のないもの、動かないものに命を与えて動かす」ことであるアニメーションという技術の持つポテンシャルを再確認することになったのだ。ここでアニメーションによって引き出されていたものとは何か。それは同時代にある風潮へのシンクロニシティとアジテーション性である。

 

2、思想としての『進撃の巨人』

 

さて、この作品は時代の潮流とシンクロしていると述べた。であるならば、それはどのような潮流とのシンクロなのか。端的にいえば、日本の「戦後民主主義」的なものへの反発をそのひとつに挙げることができる。

「戦後民主主義」的なものは、第二次世界大戦における日本の敗北によって、米国主導のもとでの行われた方向転換であった。つまり、日本の戦後体制は「戦後民主主義」的なものとセットとなっており、米国の世界戦略の中で位置付けられた思想の一部でもあったのだ。日本の対米追従政策と「戦後民主主義」的なものは、結託しているところがある。それは、例えば、企業の労働組合が正社員の待遇を良くするために、結果的に生活の不安定な非正規雇用の労働者を増やすことを暗黙のうちに肯定しているのと同じような構造を孕んでいたり、また、政府や大企業といった組織と癒着しその利益にかなった情報ばかりを流すマスメディアという図式とも重ね合わされる。日本は戦後、急激に経済大国に成長したわけだが、それは米国の世界戦略の中で、軍事も外交も自力で立ち上げるコストをかけることがなかった中での成長でもあった。つまり、日本において「戦後民主主義」的なものはいまだ建前であり、特定の人々の権益を守るための戦略であり、その根底には戦前から変わらないメンタリティが温存されている。そのようなコンテクストによる物語が、現在、日本において大きくなりつつあるのだろう。

 

3、この物語の向かう先

 

本作品は、読者や視聴者たちから今後の展開や作品世界のことまで、様々な考察や推理を引き出し続けている。そのような受容自体がこの作品の快楽なのだ。ネット上では、様々な議論や推理が飛び交い、謎を共有し、それについて仮説を立てて議論が繰り返されている。イデオロギーのアジテーションとしてだけではなく、仕組みを考え仮説を立て議論し続けること。つまり、『進撃の巨人』という作品は、「欲望される謎」の総体といえるのではないだろうか。本作品の物語はまだ継続中であるが、作者によると「舞台などの謎が明かされる時が物語の終わる時」、だという。つまり、「敵の殲滅」が物語の終着点になっていないのだ。主人公・エレンの「巨人の駆逐」という情念は、物語を進める駆動力ではあるがそれが全てなのではない。この情念と物語との関係があってこそ、謎は解かれていく構造になっている。この構造が、観るものを引き込んでいく仕掛けでもあるのだ。

(了)

【中川康雄(なかがわ・やすお)】
表象・メディア論、及びコミュニティ観察。
インディーズメディア「未来回路」主宰。
Twitter:insiderivers
個人ブログ:http://insiderivers.com

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