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道州制で日本はこう変わる ~都道府県がなくなる日~ (扶桑社新書)

都心部にいるとまだあまり実感はないかもしれませんが、現在、日本は確実に人口の減少傾向へと転じています。

日本は高度成長期に、子どもと高齢者の数に比べて働く世代の割合が多くなるという「人口ボーナス」という期間を経験しました。けれども現在、その期間に増えた人口が高齢化し、それと同時に少子化が訪れているわけですね。

もちろん、その人口分布の山になってるあたりの人びとは、あと数十年くらいでそのグラフの外部へと流れでていくはずなので、その後は安定するのかもしれません。けれどもその頃には、日本の人口はかなり減少していることが予想されます。

また国外に目を移すと、中国やインドなどのアジア諸国が経済的に台頭しつつあり、その結果、相対的に日本のポジションが低下していると言っていいのではないでしょうか。それだけが理由ではないですが、東アジア地域での領土問題や歴史認識問題の再燃していることも、その結果として生じていることなのかもしれません。やはり、国と国の間のパワーバランスが変化したことによって関係が不安定になっている、ということですね。さらに、今までの暗黙の了解ともいえた日本の外交政策である日米安保という戦後レジュームにも、徐々に亀裂が入り始めているようにも見えます。

さて、そろそろ本書の説明に入りましょう。

そのような時代の中で、これからの日本の国政や地方自治はどうあるべきなのか。本書は、その課題のひとつでもある道州制の導入について、基礎的な情報の歴史や論点が分かりやすくコンパクトにまとめています。

今、地方の状況は大きく変化してきているのですが、その変化の強力な要因は、やはり少子高齢化です。この少子化と高齢化の流れが道州制の導入を不可避にする可能性は決して小さくない、と著者は言います。そして、その導入は案外あっさりなされるかしれないとも。

例えば、明治時代の廃藩置県。その当時、旧藩士の抵抗があまり目立たなかったのは、幕末以降の多くの藩が財政破たんに近い状態になっていたことに起因するところがある。明治政府が士族の給与を保証したのです。また、平成における地方自治体の大合併も、財政難の地域が合併特例債という制度を受け入れたことによって進んだ側面がある。

地方分権、その具体的なかたちでもある道州制は、より深化した民主主義社会の実現とも重ね合わせられるものです。けれども、著者はその現状にも懸念も示しています。例えば、全て地方に任せればうまくいくとか、道州制になれば全てよくなるとかいうのは、あまりにも短絡的で根拠の薄い主張なのではないかとも投げかけています。

あと、大阪都構想と道州制の導入を同時に推進することに対しても、疑問を呈していますね。その二つは実際には相反する政策なのではないか、というのです。この二つはそれぞれ別のベクトルに向いていて、道州制はむしろ大阪を解体するのでないか、と分析しています。

去年、2020年に東京でオリンピックが開催されることが決定しました。それによって開発などは東京に集中し、道州制導入に向けた動きは鈍くなるかもしれません。けれども、民主主義の深化という側面からも、国の財政状況の側面からも、これは遅かれ早かれ実行する必要のある流れではあるのです。もちろん、そこに住む人びとの幸せに結び付くような形で、それが実現すること。財政の側面だけでなく、そのことを最優先にした上で、考えていくべき課題でもあるでしょう。

本書は、道州制によって日本がどう変わるのかという部分についてはあまり紙面が割かれていません。けれども、これまでの道州制を巡る議論の大まかな概略を確認するために、必要な情報が詰まっています。ここに示された内容を踏まえた上で、更に必要な議論を積み上げていく必要があるのではないでしょうか。

道州制で日本はこう変わる ~都道府県がなくなる日~ (扶桑社新書)
田村 秀
扶桑社
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(了)

【中川康雄(なかがわ・やすお)】
表象・メディア論、及びコミュニティ観察。
インディーズメディア「未来回路」主宰。
Twitter:insiderivers
個人ブログ:http://insiderivers.com