Share on Facebook
LINEで送る
Pocket

この記事の所要時間: 222

ヴァティカンの正体: 究極のグローバル・メディア (ちくま新書)

カトリック教会の総本山であるヴァティカン(バチカン)は、イタリアの首都ローマ市内にある都市国家だ。その名前の由来は、元々の地名であった「ウァティカヌスの丘」 (Mons Vaticanus) 。そこに教会が建てられた理由は、その丘で聖ペトロが殉教したという伝承があったためだという。

キリスト教に限ったことではないが、宗教組織はひとつのメディアである。情報を編集し、ある価値観を発信するシステムとしての側面を有しているのだ。例えば、教会は「ハコ」であり、教義は「コンテンツ」にあたる。また、儀式では「演劇」のような演出が施されており、その世界観に没入することを助けている。

マスメディアが未発達な時代、遠方からやってくるキリスト教会の聖職者たちは知識人だった。そのため、教育を施したり、文化・芸術を提供したりと、指導する立場と見なされることになる。また、彼らが拠点とした教会はマスメディアの支局のような存在として機能していた。ヴァティカンが築いたネットワークは、世界初のグローバル・メディア・ネットワークと言って良いだろう、と本書では語られている。

さらにヴァティカンはその危機の時代において、今の日本にとっても非常に興味深い政策をとっている。宗教改革という危機に際して、赤字国債の代わりに贖宥状を大量に発行し資金調達したのだ。そして、集めた資金によって壮麗な建築物を創り、著名な芸術家を呼び集めて美術品を大量発注し、道路や広場などのインフラにも注意を払ったのである。そのことによって、ローマを不朽の都として整備した。

そしてその後、政治的な存在から中立的な文化機関へと自らをシフトさせて現在に至っている。本書では、その政策の過程とメリットについても語られている。

日本が文化立国として、そして、一つのメディアとしての未来を生きること。本書ではその可能世界を夢想させる。現在の日本の政策は、このビジョンとは反対へ向かっているようにも見えるが、その夢想の現実化は前例がないことではないのだ。ヴァティカンの歴史を概観しながら、その中に日本が向う未来の姿を読み込んでいくこと。危機の時には視野が狭くなりがちだが、そのような時期だからこそ、多様な思考実験や試行錯誤が必要なのかもしれない。

ヴァティカンの正体: 究極のグローバル・メディア (ちくま新書)
岩渕 潤子
筑摩書房
売り上げランキング: 69,795

(了)

【中川康雄(なかがわ・やすお)】
表象・メディア論、及びコミュニティ観察。インディーズメディア「未来回路」。
Twitter:insiderivers
個人ブログ:http://insiderivers.com

Share on Facebook
LINEで送る
Pocket