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日本の居酒屋文化 赤提灯の魅力を探る (光文社新書)

著者のマイク・モラスキー氏は、アメリカ出身で日本在住の研究者だ。研究テーマは、日本の戦後文化や音楽文化論、東京論などを通して、現代日本社会を捉えなおすことであるという。現在、早稲田大学で教鞭を執られているが、エッセイスト、ジャズ・ピアニストという顔も持っている多才な方である。

本書でも述べられているが、私にとっても居酒屋はトライ&エラーの場所のひとつだ。だから、「上手くいったなぁ」とか「失敗したなぁ」とか思う経験も無数にある。店自体のセレクトもそうだし、席の確保の仕方や会話の仕方や話題など、ひとつひとつの選択や対応がダイレクトにその場の空気に影響し、すぐに自分の身にその結果が反映される。

つまり、お店の人や多くのお客さんによって培われてきた雰囲気を壊さずに如何にその場に溶け込むか。そして、それを如何に楽しむかが重要なテーマになるわけだ。上手くその流れに身を任せることが出来ることもあるし、まだ雰囲気を掴み切れていない店で沢山の自分のことを話したりすると、あとで自己嫌悪に陥ってしまったりもする。ある意味で私は居酒屋を、音楽のセッションの場所みたいに捉えているところがあると言えるだろう。

著者は居酒屋という場所を、単なる消費の場としてではなく、いわゆる「第三の場」として捉えている。ちなみに、「第一の場」は家、「第二の場」は仕事場だ。今日における「第三の場」という概念の重要性は、社会学者レイ・オルデンバーグの著作『サードプレイス』の中で詳しく定義されているので、関心のある方は読んでみるといいもしれない。

サードプレイス―― コミュニティの核になる「とびきり居心地よい場所」
レイ・オルデンバーグ
みすず書房
売り上げランキング: 91,970

本書では、自分好みの居酒屋の探し方から、その空間の人間関係やそこにどのように馴染んでいけばいいのかなどが具体的に記されており、大いに参考になる。また、はじめは理論的な語りが多いのだが、読み進めていくにつれて文体もくだけてくる、という展開もまた、著者の居酒屋での時間の過ごし方を追体験するような工夫になっているということも特筆すべきところだろう。その追体験の流れは居酒屋において、お客さんが常連になっていく過程である〈顧客〉→〈個人〉→〈自我忘却〉という流れにも沿うものでもあるのかもしれない。

本書で大事にされていることのひとつは、「居酒屋観光」ではなく「居酒屋探訪」を、ということである。私たちの住むこの地の根の深いところで脈々と受け継がれていると言える「居酒屋文化」。様々なところで「第三の場」の重要性がうたわれているが、私たちは「居酒屋文化」の持つポテンシャルを充分に活かせていないのかもしれない。

もし、「居酒屋探訪」をしている時に著者に居合わせたら、なんて楽しい空想しながら読むことができた。

日本の居酒屋文化 赤提灯の魅力を探る (光文社新書)
マイク・モラスキー
光文社 (2014-03-18)
売り上げランキング: 2,199

(了)

【中川康雄(なかがわ・やすお)】
表象・メディア論、及びコミュニティ観察。インディーズメディア「未来回路」。
Twitter:insiderivers
個人ブログ:http://insiderivers.com

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