「自由と不自由の入れ子細工と後戻りできない飛躍」、映画『アデル、ブルーは熱い色』(脚本・監督:アブデラティフ・ケシシュ)

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古今東西において、人の営みというものはそれほど変わるものではない。

本作の中には、社会階層の違いやそれに基づく習慣の違い、同性愛という存在の受容のあり方など、様々な現代的な要素が散りばめられているが、それらはむしろ余計に強く、人の営みの変わらなさを際立たせている。

舞台となっているのは、現代のフランス。様々なルーツの人々が同じ教室で学び、幼少期にはアフリカの民族音楽、高校では文学や哲学などを学ぶ国。国の政策を批判するデモやレインボーパレードも文化の一部として生活の中に息づいている。

日本からみたら、その姿は先進国のひとつのお手本のように見えるだろう。けれども、そこで行われている人の営みは、私たちの住むこの日本社会とも、根幹の部分ではそれほど変わるものではないのだ。多様に散りばめられている社会的要素は、この物語を形作りつつもクリティカルなインパクトにならず、まるで街の表情のひとつのようにそこに暮らす人々を包み込む。

もちろん、そのことは私たちが住むこの社会をより良いものにしていくということを否定するものではない。例えば、生まれながらにしての格差や差別などから起きる悲劇は、極力少なくなるに越したことはないだろう。そうではなく、ここで「変わらないもの」として想定しているのは、人の情動やそれが引き起こす様々な出来事なのだ。

アデルとエマは、その家庭環境や人生の選択にいて対照的ともいえるところを持つ。アデルは、堅実に安定した生活を求め教師という職業を選ぶし、エマは芸術家として安定よりも自由を選ぶ、といったように。この違いは2人を結び付け、そして、分離する力をも生み出す。

アデルの堅実でありながら、内に秘めた欲求の強さを持つ。それはあまり綺麗とは言えない食べ方や眠り方などに発露していて、その反対にエマは、自由でありながらも潔癖で真っ直ぐな性格なのだ。この自由と不自由が入れ子状になり、2人の世界は有機的にひとつに構成される。だからこそ分かち難い。

もう後戻りすることのできない出来事に出会った時、そこにはいつも青がある。赤よりも熱い青は、その戻ることのできない飛躍を可能にする。青とは静かに燃える運命とリビドーの色なのかもしれない。

本作品は、2013年にカンヌ国際映画祭でパルムドール最高賞を受賞。本来は監督一人に授与されるこの賞は、主演女優のアデル・エグザルコプロスとレア・セドゥにも贈られた。カンヌ史上初の出来事である。コミックが原作となった作品がパルムドールを受賞したのも初めてのこと。

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アップで映し出される顔の表情や仕草から読み取れる情報量の豊かさ、舞台装置として物語に彩りを与える様々な現代社会のエッセンス、179分という長さを感じさせないテンポの良さは必見だ。

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(了)

【中川康雄(なかがわ・やすお)】
表象・メディア論、及びコミュニティ観察。インディーズメディア「未来回路」。
Twitter:insiderivers
個人ブログ:http://insiderivers.com

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