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この記事の所要時間: 420

SFを実現する 3Dプリンタの想像力 (講談社現代新書 2265)

1. 「SF」のイメージをハッキングする

タイトルにある「SF」という言葉は、一般的には「サイエンス・フィクション」という意味を想起させるのではないでしょうか。けれども本書では、この「SF」という言葉に別の意味が付与されています。本書を読む前と後では、この「SF」という言葉を見た時に浮かぶイメージが変化していることを、読者は経験することができるでしょう。

本書におけるSFとは、「ソーシャル・ファブリケーション」の略語です。「ソーシャル・ファブリケーション」とは何か。それはインターネットと3Dプリンタに代表されるデジタル工作機械がつながったことによって可能になる社会状況のことを指しています。

3Dプリンタというと、最近は銃の密造のようなネガティブなニュースでも注目を集めていて、国内世論においてはメリットの部分が具体的に示されていないこともあり、注意すべき危険な技術と考える人も多いかもしれません。そのような人にも本書は、その技術革新が可能にする様々な変化について肯定的に、且つ、具体的に捉える視点を提示する内容になっています。

インターネットの存在が人と人とのつながりを促すプラットフォームになったり、様々なアイディアが生まれる胎盤にもなるということは今更説明する必要もないことでしょう。本書における「SF」とは、そのつながりやアイディアをモノをつくる行為へと結び付けることなのです。

つまり、フィクションを描くだけではなくて、それを社会的に実現していく過程までを含んでるということ。「フィクション」が「ファブリケーション」へ転じるということ。ここにおいて、従来の「SF」のイメージはハッキングされ更新されることになります。

2. 「デジタル」と「フィジカル」の等価性

「デジタル」なものと「フィジカル」なものが対等に扱われるようになるということ。それが本書における「SF」が描く未来像となっています。そのような話を聞くと、もしかしたら違和感を持つ人もいるかもしれません。情報と物質を同列に扱うことには無理があることなのではないかと。

けれども、私たち自身の身体もそのメカニズムの根幹にはDNAというデジタル情報に類似する設計図を元に形作られています。その原理を身体の外にそっくり取り出したかのような技術が、「ファブリケーション」というものなのです。生物の起源にも通底する情報から物質への変換装置。それが著者の「3Dプリンタ」観だと述べられています。

「鶏が先か卵が先か」ではないですが、情報と物質は相互に移行する状態の違いのようなものであるということなのです。そこでは「デジタル」と「フィジカル」は2つで1つと言っていいでしょう。この2つはグルグルとループしながら生成変化を生んでいきます。

3. コピーによる進化や分化

「デジタル」なデータをもとに「フィジカル」なモノを作るというと、同じものがどこにいても生産されるというイメージが強いかもしれません。けれども、この「SF」の世界においては、地域性というものがモノに強く影響を与えるのです。

例えば、地域によって必要とされるモノの形は変化するわけですから、元のデータをそのまま出力するのではなく現地でアレンジする必要あります。それに「フィジカル」なモノにするためにはそのための素材が必要になってくるわけで、その素材はその地域で調達する必要も出てきます。

陶芸などでもその地域の土の特徴が大きなファクターとなったりしますが、この「デジタル」から「フィジカル」への変換においても、地域性というものが重要になってくる可能性があるわけですね。

つまり、「コピーによる進化(分化)」とでも呼ぶべき、新しい文化現象が生まれ始めているのです。それは例えば、「リバース・イノベーション」という現象を生み出すファクターにもなっている。「土着性」から立ち上がる文化が、これまで以上にイノベーションを生み出す大きな要素になっていくということですね。

「世界の周縁の地ほど、最先端技術を必要としている」。本書ではそのことも指摘されています。重要なことは、現地で使用者自身が目的に合うように再編集すること。そのための拠点として、各地に「ファブラボ」という「施設」を作っていく取り組みがあります。この「ファブラボ」が「SF」を社会に実装するための拠点となるのです。

日本でもすでに多くの「ファブラボ」が存在していますね。
http://fablabjapan.org/

SFを実現する 3Dプリンタの想像力 (講談社現代新書 2265)
田中 浩也
講談社
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(了)

【中川康雄(なかがわ・やすお)】
表象・メディア論、及びコミュニティ観察。インディーズメディア「未来回路」。
Twitter:insiderivers
個人ブログ:http://insiderivers.com

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