「集合的なトラウマからの回復と失われた10年の関係」、『Youth Movements, Trauma and Alternative Space in Contemporary Japan 』(Carl Cassegård)

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Youth Movements, Trauma and Alternative Space in Contemporary Japan

ミニコミ誌「未来回路』にも寄稿していただいたことのあるスウェーデンの社会学者、カール・カッセゴールさんが昨年出版された著作『Youth Movements, Trauma and Alternative Space in Contemporary Japan 』をざっと読みました。英語の本なので、細かいニュアンスは掴みきってはいないとは思いますが、簡単にレビューを書いておきます。

本書は、2004年から2012年の間に行われた著者自身によるフィールドワークの成果に基づきながら、1980年代後半から今日に至るまでの「フリーター・アクティビズム(freeter activism)」の歴史を描き出しています。つまり、これは「ポストバブル」以降の社会運動史と言えるでしょう。この歴史は、60、70年代に負った日本の社会運動における「集合的なトラウマ(collective trauma)」からの回復の物語でもあります。

ここでいう「フリーター」という概念は、かなり広義の意味で使用されています。例えば、学生、若い学者、芸術家やホームレスの人々、パート・タイムの働く主婦や引きこもりなども、この「フリーター」という層を形成する人びととして含まれているのです。つまり、社会のメインストリームから外れたところにある人びと、いってみれば多義的な意味での「有象無象」たちが、この論考の中で物語を紡ぐ主人公と言えるでしょう。

本書では、「集合的なトラウマ」からの回復のプロセスにおいて、「オルタナティブ・スペース」の存在が重要な役割を果たしていることが指摘されています。この「フリーター」層のエンパワーメントと「オルタナティブ・スペース」は密接な関係を持っており、その萌芽が90年代という失われた10年の間に生まれている、というのです。つまり、トラウマからの回復の準備期間として、90年代におけるささやかな社会運動がとても重要な役割を果たしていることを示しています。その90年代の再評価が、本書の主旨のひとつにもなっているのです。

このような内容の論考が日本からでなく海外から生まれたことには、大きな意味があるのではないでしょうか。なぜなら、物語の当事者たちは、自らの属する物語と自分が分かち難く結びついているがゆえに、距離を置いた語りが困難になるからです。

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Table of contents:

Preface
Introduction

1. Trauma, empowerment and alternative space
– Collective trauma
– Empowerment and the role of alternative space in social movements

2. Japan’s lost decade and two recoveries
– The end of the bubble and the arrival of precarity
– The sense of closure and the legacy of previous protest
– Lost decade, regained activism?

3. The new cultural movements
– The storm of autumn
– The league of good-for-nothings
– Anti-war protests and the prehistory of sound-demos

4. The rise of movements against precarity
– The General Freeter Union and the ‘precariat’
– ‘Life’ and ‘survival’ in the precarity movement

5. Space, art and homelessness
– Public space, counter-space and no-man’s-land
– Art beyond the pleasure principle: The Shinjuku cardboard village
– Anti-poverty and Viva poverty
– “Waking up from the dream”: Nagai Park’s theatre of resistance
– Miyashita Park: Can a no-man’s-land be defended?

6. Alternative space, withdrawal and empowerment
– Support groups for social withdrawers and NEET
– Freeter Unions: narratives of recovery

7. Campus protest

8. The recovery of activism
– Three innovations of freeter activism
– The importance of space – contestation and bracketing
– Fukushima and beyond

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Carl Cassegard
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(了)

【中川康雄(なかがわ・やすお)】
表象・メディア論、及びコミュニティ観察。インディーズメディア「未来回路」。
Twitter:insiderivers
個人ブログ:http://insiderivers.com

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