この記事の所要時間: 330

学習する組織――システム思考で未来を創造する

 人文・社会系出身の人にとってビジネス系の本を読むというのは、ちょっと抵抗がある行為なのではないだろうか。いわゆる人文・社会系が持っているビジネス系の本への印象は、「よく売れている本」とか「自己啓発の本」といった傾向があり、ちょっぴり胡散臭く思っていたり。特に文学部出身だったりすると、最近はそういう感じは薄くなってきたとはいえ、市場経済で価値のあるものや成功したものに対してスポットライトを当てることを嫌悪したり、現在の社会を成立させている価値観などに懐疑的であったり、世捨て人的に俯瞰した態度に固執したりしがちだったり。

 けれども、本書はそんな人文・社会系の人でも結構読みやすいのではないかと思われる。

 例えば、「システム」といえばニコラス・ルーマンを思い起こさせるし、システムの「ループ」はゼロ年代のコンテンツとか。色々と想像力を働かせれば、かなり関心を持ってこの本を読むことができるのではないだろうか。

 この本は一種の思想書として読むことが出来る。最後の方で書いてあるのだが、著者はガイア理論にも大きな影響を受けている。そのような世界観のもと、ビジネスやマネジメントに対する考え方を構築しているのだ。

 具体的にはキーワードとして、「システム思考」、「メンタルモデル」、「共有ビジョン」、「自己マスタリー」、「創造的緊張」などが挙げられるが、人文的に簡単に内容を要約してしまうと以下のようになるだろう。

 組織の「共有ビジョン」は、その構成メンバーに強制するのではなくて、個人個人の持っている物語やビジョンが如何にその「共有ビジョン」に関わるかと考えていった方がいい。そして、個々人が現状をビジョンに近づけていくにあたり、「創造的緊張」というものが必要となってくる。それは現状とビジョンを引きつけるものだ。それを生み出し維持していくためには「自己マスタリー」が必要であり、ビジョンを達成するためには方法論として「システム思考」が必要となってくる。この「システム思考」は全てのディシプリンに関わるもので、独立した互いに関連のない力で世界が創られているという思い込みを打ち砕く。自分自身が世界から切り離されているという見方から、繋がっているものだとする見方へ。重要なのは、問題は「外側の」誰かか何かが引き起こすものなのではなく、いかに私たち自身の行動が問題を引き起こしているのかに目を向けること。つまり、「あちら」と「こちら」はともに、1つのシステムの側面なのである、と。

 そんな中で、システムの要素として2つの基本的な型が挙げられている。

①自己強化型(増強型)フィードバック・プロセス(またはループ)→成長の原動力として作動。
②バランス型(平衡型)フィードバック・プロセス→目標を指向する挙動があるとき作動。

 そして、原因と結果の間には「遅れ」が生じる。全てのシステムの原型が、この「自己強化型プロセス」、「バランス型プロセス」、「遅れ」の3つによって構成されている、というのだ。

 ダイアログ(対話)の重要性に関しても触れられている。ダイアログの目的は、思考にある非一貫性を明らかにすることにある。この非一貫性を明らかにするという作業は、なかなか1人では難しい。ある行為に対して、振り返り、探求し、ダイアログを行うこと。それが思考に一貫性を持たせ、自分の「メンタルモデル」に気付くことに繋がるのだ。そのことによって、自らがとらわれているシステムを可視化し、問題があれば書き換えていく。こういう考え方は結構、人文・社会系の人にも取っ付きやすいものだろう。

 最近は、ビジネス系の人たちが人文系の本を手にする機会が増えてきたような印象を受ける。そうであるのならば、人文系の人たちもビジネス系の人たちがどのようなことを考えているのかを、先入観だけでなく実際アプローチして感じ取ることも重要なことのように思えるのだが、どうだろうか。

 

【中川康雄(なかがわ・やすお)】
文化批評。表象・メディア論、及びコミュニティ研究。
未来回路製作所主宰。
個人ブログ:http://insiderivers.com