「先端技術と地域が交わるところ」、「MEDIA/ART KITCHEN YAMAGUCHI―地域に潜るアジア:参加するオープン・ラボラトリー」(山口情報芸術センター)

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1.

先日、一年ぶりくらいに、山口にある実家に帰っていたのだが、その時に、私が勝手に「山口の二大アート拠点」と名付けている「秋吉台国際芸術村」と「山口情報芸術センター(YCAM)」という2つのアート施設にも、久々に足を運んでみた。

前者の方は、山の中にあるということもあり、以前と同じようにひっそりとしていて、施設の敷地内で出会うのは、ほとんど清掃業者の人とかそんな感じ。まぁ、会場を貸したり、クラシックなどのライブなどを行ったり、メインと言える事業であろう「アーティスト・イン・レジデンス」は継続的に行なっているようだった。

しかし、この静けさは、確かに1つの価値であるとは思うものの、やっぱり、この建物はその事業内容と比べてあまりに勿体ない、と改めて思うなど。維持費や人件費も結構かかってるだろうし、何だかとてもアンバランスな場所だ。その壮大な「無駄」もまた、素晴らしくはあるが、どうしたら有効活用できて面白くなるか考えてみた。

※秋吉台国際芸術村の画像。
http://chikyu-travel.com/archives/814

2.

まず気になったのは、併設されている宿泊施設の稼働率がとても低いことだ。レジデンスしているアーティストのための部屋を確保するのは当然だが、もっと一般に広く宿泊場所として解放した方が良いのではないだろうか。例えば、ゲストハウスとして運営するとか。そういえば、最近、山口の萩に県内初のゲストハウスが誕生している。

※萩ゲストハウス ruco
http://guesthouse-ruco.com

そこから定期の観光バスを出すとか。これは、オーストラリアのバイロンベイにあるアーツファクトリーでやっていたのだが、街から少し離れた場所に施設がある場合は、やはり定期バスなどの足が必要になってくる。そして、宿泊施設や文化施設、観光産業とかを交通で繋いで、多様な要素をミックスすることによって、1つの文化シーンを形成していくのだ。

観光のインフラを充実させれば、来客者たちは、日本国内にとどまらず、海外からも多く訪れるようになるだろう。観光のリソースはふんだんにあるのだから、例えば、観光名所と充実したインフラがあることを世界のバックパッカーの情報網に載せたりすれば、世界中から人が訪れる。これで世界における山口の存在感は増していくであろうし、場所の開き方を調整すれば、アート施設としての役割も阻害することはないだろう。

あと、もうひとつ。やはり、地域と施設を緩やかに繋いで、お互いにフィードバックする仕組みを作るということ。これは包括的な芸術史を語る上で、現在、とても重要なテーマになっている。地域に根差すことが決して「ヌルく」なることではなく、むしろ「先鋭的」であることが可能な時代なのだ。

3.

その点において、後者、つまり、「山口情報芸術センター(YCAM
)」は、ドラスティックな変化をみせていた。

今やってる「MEDIA/ART KITCHEN YAMAGUCHI―地域に潜るアジア:参加するオープン・ラボラトリー」は、素晴らしい試みだ。私がよく通っていた数年前までの同施設とは、明らかに方向性自体が大きく変化している。

「YCAM」は元々、地域を大切にするアート施設ではなかった。メディアアート、パフォーマンスアートの拠点であるのだが、地域性ではなく、国際性や先端性を重視していた施設だったのだ。一応、市民を対象にしたワークショップなどはあったが、それらは、ほとんどアリバイ作りというか、申し訳程度のものだった。介入しすぎる地域性は、基本的にノイズとみなされカットされる、と言えば何となく伝わるだろうか。

地元のアーティストたちとは明らかに対立していたし、その対立の点は、もちろん、予算の配分っていうのが大きかったのだけれども、それだけでなく、「YCAM」が地元の人たちを軽んじていた、というはあったように思う。人材の配置の仕方や立ち回りからも、そのことはうかがえた。少し過激なことを言うように思うかもしれないが、これはある程度の関係者だったら大体知っている話のはずだ。

だから、今回の展示の内容にはとても驚かされた。「数年前と全然、方向性が違うやん!」って感じ。禁止されてたはずの、館内における手書きの掲示まであるやんけ。。

※ 現在の「YCAM」の画像。
http://chikyu-travel.com/archives/862

4.

展示会場にいたスタッフの人にちょっと話を聞いてみると、色々と丁寧に説明をしてくれた。このような展示の方向性が生まれた流れなど。「地域に潜る」、「繋がる」、という流れは、ある出来事から端を発して生まれた、とおっしゃっていた。

それは、目の動きでコンピュータ端末を操作する技術をネットで公開したら、障害を持つ人たちから多くの反響があったというのだ。そこから、施設の持つ技術を外部に活かしていく、という流れが生まれてきたという。

そこから、地域にもその技術を還元して、街づくりとか問題解決に役立てようと流れになってきたと。これは素晴らしいことだと思う。施設での研究レベルを下げるのではない形で地域や歴史と結び付いている。これだと対立など、基本的に無用なものになるだろう。つまり、巻き込みつつ巻き込まれていくのだ。地域に潜ることが先進性に繋がること。それがここで結実している。

金沢21世紀美術館や仙台メディアテークにあって、YCAMになかったと感じられたものが、もともとの良さを損なうこともなく生まれていた。今後の公営のアート施設における文化政策に大きな可能性を感じさせる。もし、行けるのであれば、是非とも足を運んでみて欲しい。

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(了)

【中川康雄(なかがわ・やすお)】
表象・メディア論、及びコミュニティ観察。インディーズメディア「未来回路」。
Twitter:insiderivers
個人ブログ:http://insiderivers.com

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