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ソーシャルストリップ

1. 記憶とモノ

「人は見た目で判断しちゃいけない」とか「した方がいい」とか、身に付けていたり持っているモノだとかで、そのヒトトナリというか、そんなのがひょっこり顔を出してたりするのだけれども、そのモノたちにどんな物語や関係がくっ付いているのかということは、他人からはなかなか見えてこない。けれども、それは確かに「ある」のだ。

そのモノと人との間にある物語とか関係とか、そんなのがすぐに分かってしまうというのは、経験によって大量のデータベースを脳に蓄えてるとか、探偵みたいな知識と鋭い洞察力があるとか、はたまたエスパー的な何かであるとか、そういう特殊ともいえる条件が整っている場合であって、だいたいの場合、通俗的な常識とか知識とか思い込みとかで表面的にみているだけに過ぎない。

いや、その表面すら、ちゃんと見ているかどうかはあやしかったりするし、つまりは人は、見ているようで見てないし、でも見えてるつもりになってしまっているのだ。

普段、そんな人とモノに付随する物語や関係というものは、無数の襞のように異次元ともいえる空間の中に折りたたまれていて、外部からそれを観察することは難しい。けれども、それらのモノは、そこに存在していることで何らかのメッセージを発し続けていて、それを私たちはほとんど受け取ることができていないだけなのだ。このような世界の仕組みの中で、誤読や散種ばかりの中で、私たちはほとんど他人からのフルボッコ状態で暮らしている。

モノと人の間にある物語や関係というのは、ただ物理的な「事実」に基づいたものだけではない。もしそういった「事実」だけであるとしたら、人が演劇によって表現することの必要が特にないからだ。

ここに何故、演じる必要性が生まれているのかというと、その人に直接聞かないと確認することができないものがそこにあり、モノの原材料とか産地とか買った場所とか、そのような条件だけをいくら分析しても導き出すことのできない情報がそこにあるからなのである。

2. 演劇とおしゃべり

おしゃべりをすることは、最近はそうでもないかもだけれども、男の子よりは女の子が好むというか、そういう傾向があると思うのだけれども、たとえば、男の子だと大体話の目的というかそういうのが明確にあって、その目的に沿って話すものだけれども、女の子の場合は、どちらかというと話すこと自体が目的というか、話すことで何かをあれするとか、そういう発想はあまりないように思われる。

今回のこの作品は、その女の子のおしゃべりの特徴というかそんなのと上手く演劇という表現形式を重ね合わせていて、「これは一つの発明なのでは」と思えた。しかもこれ、確実に人によって全く異なる物語が召喚される仕組みになっているので、ステレオタイプな物語に当てはめることの方が困難だ。モノから物語を立ち上げていくと、その人の固有性に物語が依存するので、ありきたりな物語からはみ出して、どこまでも固有のものになっていく。その感覚が心地いい。

もちろん、ただ女の子のおしゃべりを聴きにいくという感じでもなく、ちゃんと観客の想像力を遠くの方へ誘ってくれて、宇宙とか世界とか、時代で変わるものとか変わらないものだとか、これ間違いなく演劇だといえるもので、それでいて友人の部屋でお呼ばれしておしゃべりを聴いた後のような感覚も残っていて、私たちの日常において無自覚に引かれた様々な境界線を心地よく越境していく。

3. 記憶を引き連れて旅をする

公演後、観客の感想を聞く時間があって、その中の一人が、その舞台、つまり、部屋のありようが「ディスクトップみたいだ」と述べていたのだけれども、これは私の主観なのだが、部屋というもの自体がもともとディスクトップ的な性質のものなのではないかと思った。でも確かに、部屋の中の可愛い、素敵なアイテムたちが華やかで印象深くて、その効果もあってアイコン的に見えるなーとか。

この作品は、部屋にある様々なものには、物語があって、それをスーツケースに詰め込むことは、その物語ごと、つまり、つながりつつ次にいく感じになってて。その詰め込んでいるものは、たしかにモノなんだけれども、ただのモノにはみえなくなっている。痛くても、切なくても、様々な思い出をモノに詰め込みながらそれを携えて生きていくことは、自分の思い出をキャンセルせずに、つまり、過去の自分を引き連れて生きていくということなのだろう。

次の公演の会場は今回の2倍くらいのキャパがあるらしくて、部屋に招待された感じみたいなのが、どうなるのかは気になるところ。こじまんりとした会場だからできる演出もあったから。広い部屋という感じになるのだろうけど、そうなると、何かセレブ感のようなものとかでるのかな、それは冗談だけれども(笑)。

悪いことはいわないから、この作品は観たほうがいいと思います!

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・《演劇センターF》公演

☆日時
10月4日 19:00~
10月5日 19:00~
☆会場
演劇センターF
横浜市中区初音町2-43-6 Kogane-X Lab.


・《Art Center Ongoing》公演
☆日時
10月24日 20:00~
10月25日 20:00~
☆会場
Art Center Ongoing
東京都武蔵野市吉祥寺東町1-8-7

☆スタッフ
きゃくほんきょうりょく:セバスチャン・ブロイ(FAIFAI)
だんすふりつけ:菅尾なぎさ(クリウィムバアニー)
えんしゅつじょしゅ:加藤和也
せんでんびじゅつ:小林剛
しゃしんさつえい:小林由美子
きょうさい:演劇センターF/Art Center Ongoing
きょうりょく:FAIFAI

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(了)

【中川康雄(なかがわ・やすお)】
表象・メディア論、及びコミュニティ観察。インディーズメディア「未来回路」。
Twitter:insiderivers
個人ブログ:http://insiderivers.com