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世界一幸福な国デンマークの暮らし方 (PHP新書)
千葉 忠夫
PHP研究所
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1. 「幸福とは何か?」に答えられない人びとの行き先

 大きく世界情勢が変化しているなかで、「幸福な国とは何か」を考えるという余裕のようなものが、今の日本にはなくなっているような印象を受ける。大国と大国のあいだで、いかにうまく立ち回るか、経済的にいかに多くのお金を稼げるようになるのか、つまり目先の利益によってグランドヴィジョンのようなものがみえにくくなっているように感じられるのだ。それは、国際情勢の変化をまるで日本にとっての「自然」と捉えて、ただひたすら順応しようとしている姿のようにも見えてくる。

 そのような状況は、国家レベルでの話だけではなく、個人の間でもそうだ。たとえば現在、日本においては、富が裕福層と貧困層で2極化していく流れに抵抗できる勢力はほぼなくなってしまっていて、その結果、いかに自分たちが割を食う役を引き受けないかが暗黙のうちに重要視されている。潜在的にこの世界は平等などではなく、それならば有利な立場にいたほうが勝ちだ、といったふうに。それは子どもたちも敏感に感じ取っているように思われる。たとえば「いじめ」の問題に関しても、大人がすでに暗黙のうちにそれを肯定してしまっていて、「いじめられるくらいならいじめろ」というメッセージすら発せられているように思われる。

 しかし、地域や教育などの面で、日本はいまだにすべての人たちにフェアな環境を築くことができていない。そのため、生まれ落ちた環境によって階層間の移動はかなり限定的なものになってしまう。少数の階層移動者の成功物語によって社会的なガス抜きされるという構造は続いていき、日本がほとんど後追いをしているように見えるアメリカという国に、これから良い意味でも悪い意味でも近づいていくのかもしれない。

 けれども、人びとが幸福を追求する権利を持つという前提をもつ民主主義国家であるならば、国家はその追求をサポートする義務があるはずだ。そして「幸福」とは何か、という指針もそこになくては、国をその目的に合わせて運営していくことはできないだろう。その「幸福とは何か」ということに、市民が明確の答えられないような状況では、すべてはなし崩し的に既得権益を保守し拡大していく方向にしか進んでいかない。だが、国民から集められた税金は国民の「幸福」のために使われるべきなのだ。その基盤となる法律も私たちはすでに持っている。

2. デンマークでは「幸福」のイメージは童話から培われた

 現在、世界一幸福な国とは「デンマーク」だそうだ。デンマークは資本主義でありながら社会福祉国家で、税金は直接税と消費税の2つがあり、直接税だけでも国民の収入の50%を納められている。さらに消費税は25%と世界でもっとも高い。それだけ聞くと、税金に対してあまり良いイメージを持っていない日本人は、羨ましくは思えないだろう。だが、それらの税金のほとんどは教育や福祉に使われていて、そこからくる安心感が幸福の実感につながっているようなのだ。

 デンマークのそのような社会システムは、とってつけたような思想からくるものではない。その思想の源流のひとつには、200年ほど前に生まれた童話作家・アンデルセンにあるようだ。アンデルセンがその作品のなかに描いた未来社会の姿は、その童話を愛したデンマークの人びとによって実現されたのだ、と本書の著者は言っている。その未来社会で重要視されているのは、人びとが「生活しやすくて住みやすいこと」。そのことが「マッチ売りの少女」などの作品に込められているのだと。

 また、デンマークが今のような社会福祉国家になった背景には、キルケゴールなどの哲学者の存在もあったという。日本では、社会と個人というものは異なるレイヤーとして分けられ、どちらかというと社会のほうが優先されるべきものとされている傾向がある。だが、デンマークではその逆だ。「個人を大切にすることが、個人の集まりで構成されている社会を大切にすることにつながる」と考える背景には、そうした哲学・思想的なバックグラウンドがしっかりと存在しているのだ。

3. 人類の壮大な社会実験の果てにあるもの

 本書では、アンデルセンが描いた貧しかった「マッチ売りの少女」の国が、なぜ世界一幸福な国になれたのか、その仕組みが紐解かれている。

 「日本という国は豊かである」というイメージは、自国民にも多くの他国民にも共有されているものといえるかもしれない。しかしそれはすでに過去のイメージとなっていって、例えば、世界の相対貧困率ランキングでは現在日本は第5位という状況なのだ(本書出版2009年時点で)。なんと国民の15%もの人びとが貧困状態におかれているという。ちなみに先進国のなかで貧困率第1位はアメリカだ。人種差別が横行しあちこちに貧困者たちのスラム街のある国が、金がなければ医療も教育も受けられない国が、本当に民主主義なのだろうか。

 これは人類の壮大な社会実験でもあるのだろうが、アメリカ型の民主主義だけではなく、北欧型の民主主義というものもあることを、日本はもっと知るべきなのかもしれない。本書を読んださいの私の感想はそういったものだった。そんなことを言っても、日本と北欧の国々では人口の規模が違うから、という意見も多いことも知っている。だがそれは、道州制を導入すればかなり解決する問題だと筆者はいっている。

 さらにデンマークは世界一政治の世界で汚職の少ない国だという。この特徴もとても重要なポイントだ。税金の使われ方もオープンでクリーンであることは、多くの税金をあつめうる正統性にもつながっているからだ。日本はまずこの点をなんとかすべきなのだろう。だが、それがとても難しい。利益集団というものは、理屈抜きでみずからの所属する集団の利益の増幅を望む。それはほとんど自動機械のように。それは「ノブレスオブリージュ」だけではどうしようもなく、仕組みの変更によってしか変えることはできないものだろう。

(了)

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