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この記事の所要時間: 34
言ってはいけない格差の真実【文春e-Books】
文藝春秋 (2016-12-09)
売り上げランキング: 12

1. 見落とされがちな「知能の格差」

 本書では、現在、さまざまな場所で社会が分断されている本当の理由は、「知能の格差」にあるとしている。現代の知識社会化の世界において、経済格差は知能の格差でもあるとしている。それを前提として世界を眺めると、今何が起こっているのは見えてくる、というのだ。

 そして本書のもうひとつのポイントは、格差を問題視するリベラリズムによって、むしろその格差は推進されてしまっている、というところだ。

 「知能の格差」についてリベラリズムは「格差は教育によって生まれる」というのが基本的なスタンスだが、それは「信念」のようなものであって科学的な根拠はない、としている。ここでは、知能もかなりの高確率で遺伝するということ、先天的なものが大きいこと示す研究結果が、その根拠として使用されている。

2. 理想を目指すほど格差が広がる仕組み

 そして問題はその先にある。リベラリズムの平等の「信念」が、よりよい社会を目指そうとすればするほど、フェアな社会を実現しようとするほど、社会は知能によって分断されて経済格差が広がっていく、という仕組みがそこにあるというのだ。

 それは、社会にある「障がい」を認められないために、引き起こされているアンフェアさの問題とも近いのかもしれない。

 日本ではまだそのようなリアリティはあまり生まれていない理由も、本書では述べられている。欧米ほどの「知能の格差」が顕在化していない理由は、日本型の終身雇用・年功序列というシステムや、正規/非正規のような「差別」によって隠蔽されているからだと。

 つまりこの「差別」の撤廃は、そのまま「知能の格差」社会化に直結しているという予測も本書ではされている。

3. 社会を推進する原理をアップデートする必要性

 今、さまざまな社会のなかで起こっている分断。それは「知能の格差」という現実を、本来ならひろいあげるべきリベラリズムの側が、自らの「信念」によって推進してしまっていたということ。リベラリズムが、グローバル化や知識社会化と一体になっている現状があると、本書では語られている。

 しかし同時にこのような疑問もわいてくる。固定化してしまってただ信じたい「信念」だけでなく、現実を冷静に分析する現実主義を携えたリベラリズムならば、現状の脱構築でも可能なのではないか、と。現代は、ゼロベースで社会の原理を新たに作り上げていくことが必要な時代となっているのではないだろうか?それは、リベラリズムの側からも可能なようにも思える。

 「良き社会」とは一体どのようなものを想定すればいいのか?

 それは自分たちの所属するコミュニティだけが良ければいいというものではないはずだ。社会を推進していく原理自体をアップデートする必要が、いまここに生まれている。その作業を怠るのならば、これまで人類が築いてきた歴史の遺産を無視して、先祖返りするしか道はないだろう。それ以外の道を探ることが、今、私たちに求められている。人間の「知」を信じること、それは現実を無視することとは違うはずだ。

(了)

言ってはいけない格差の真実【文春e-Books】
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