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ヘルタースケルター (Feelコミックス)

 女の虚無感ほど、救いようのないものはない。どれだけ美しく着飾っても、周りからチヤホヤされ、贅沢な暮らしをしても、好きなだけセックスしても、自分がブラックホールになったように、満たされない空虚を抱えてしまう。

 沢尻エリカ演じるりりこという女も、救いがたい女である。全身整形で手に入れた完璧な容姿と、めまぐるしい華やかな仕事と、金持ちの恋人。誰もが憧れる、宇宙一の女のはずだった。整形の後遺症が現れると同時に、彼女の内面も徐々に崩れていくように見えた。しかし実はそのずっと前から、一人のただの女として、尋常でない虚無を自身の内に秘めていたのではないだろうか。

 蜷川実花監督の、目にツンとくるカラー画面の中で、沢尻の若さと美しさはピカイチだった。演技の良し悪しはわからないが、まさに芸能界で生きている今の彼女と、りりこの生き様は重なる部分が少なからずあると思う。今は注目されて輝いているけれども、老いることや、いつか忘れられてしまうことへの恐怖を感じている。それはまた、女優やモデルだけの問題でなく、女性全般のごく普通の悩みでもある。若い肌のままでありたい、美しくなりたい、誰からも愛されたい。女であれば、一度はそういう時期があるのではないか。そういうわけで、わたしはこの映画を客観的な目でみることはできなかった。わたしにとっては今が、そういう時期だからだ。

 この映画の中で、女の若さや美しさと同じくらい強く目に映るのはセックスの描写だと思う。女としての痛烈な自覚は、男に抱かれることによる肉体的・精神的快感として得られる。りりこにとってもきっとそうだったはずだ。しかし彼女は自分の仕事に有利になるように、お偉方とのセックスも惜しまない。性は貨幣のように、薄っぺらに交換される。それでも、欲しいものを何がなんでも手に入れたい欲深さからすればたいしたことはない。若くて美しいことは自分の見栄のためであり、自己満足のためであり、そして性欲は物欲を満たすための手段にもなりうる。

 永遠などというものは幻想で、若さにもいつか終わりがくる。たいていの人は生きているうちに自分の老いをしぶしぶでも受け入れていくものだ。そうでなければ、若くて綺麗なうちに死にたいなんて思ってしまう。りりこは、崩れていく美しさについてどう思っただろう。恐ろしさのあまり泣き叫んでも、終わりは来てしまった、ように思われた。過去の醜い姿が暴かれモデルとしての地位を失うときも、ゴシップで皆を喜ばせる自分を自嘲したりりこ。そしてどこへともなく消えていった。りりこを失ったモデル界はそれでも変わることなく、美しさを求める女たちに情報を供給し続ける・・・。一方りりこは、どこか遠い国でやはり「一番」であることに執着している。

 わたしたちは空っぽな自分を自嘲しながらも、求めることをやめないだろう。化粧品や洋服やお金をいくら消費しても飽き足らず、自分の性を遊び呆けても、満たされない。軽やかに、尽きない欲望を燃やし尽くしながら、生きている自分に酔っていたいのだ。できれば永遠に。

【もも】
福岡県生まれ。神奈川県在住。ぼんやり生きている大学二年生。二十歳。感情を表現するのはニガテです。いっぺんに大勢の人と話すのはニガテです。でもほんとは話すの好きです。生魚食べられません。水族館は好きです。朝起きるのは大変です。部屋を片付けられません。好きな人がいます。新宿によく行きます。本を読むのは遅いです。歌舞伎町で修行しています。しっかりした大人になりたいです。おもしろい物語を書いてみたいです。