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0.3つのレイヤーを貫く変化の軸

 

ついに2012年が終わりますねー。

私自身は、将来のこととか色々な絵を描きながらもその準備くらいで、具体的な動きみたいなのをあまりできなかった1年だったように思います。来年は、計画をサクサク実行していけるようになりたいですね。

さて、今年から始めたこの「未来回路.com」ですが、まだまだかたちが定まらない感じです。来年からはイベントレビューとかもしたり、書籍以外のレビューも増やしていきたいと思っています。文章を書くスピードもちょこっと上がった気もするし、もっとスピーディに書いてアップしていきたいと思っています。なのでこのエントリもササッと書いてみます。

あとやはり、色々な人に書いてもらいたい。たぶん、来年はTwitterとかでの頻繁に募集とか緩い感じでしていくと思うので、もし宜しければ遊んでいただける幸いです。若干の広告効果もあると思いますし。若干ですけど。

さて、今回は今年のまとめ的なのを書きたいと思いまして、2012年に「未来回路.com」で取り上げた本のうち、5つをピックアップしてみます。

今年、私たちの身の回りに起きたことを振り返ってみると、社会状況の変化に伴う新しい勢力と既存の勢力の融合というか落としどころを試行錯誤で実験しなががらそれなりに結果が伴ってきた一年、という印象を受けました。ネット界隈の観点からみると、「ネット」と「リアル」の融合がさらに進んだ年といってもいいかもしれませんね。

そして、今回の本のピックアップですが、3つのレイヤーを設定してそれぞれを選んでみました。

1、グローバルな視点

2、日本国内の視点

3、個人的な視点

の3つのレイヤーです。
これらの紹介の中で何か共通の傾向みたいなのを読み取っていただけるとうれしいです。

まず、世界的に起きている現象を確認し、その中での日本の状況を見つめ、その日本社会の中で暮らしている私たち一人一人の生活まで視点を移してみたいと思います。

 

1、グローバルな視点

 

当たり前のことではありますが、現在起きている様々な変化は日本国内だけで起こっているわけではありません。そこには関連性が存在し、全体の流れの中で国内の状況も反応しています。なので、国内に起こっていることを深く理解するためには、やはり国外の現状や議論を確認することが有効なのではないでしょうか。

ここで挙げたいのは『ワーク・シフト』と『MAKERS』の2冊の本です。

『ワーク・シフト』。この本は「働き方」の未来を描いた本ですね。著者のリンダ・グラットンさんは、ロンドン在住の経営組織論の権威の人。いま起きつつある変化は景気の後退だけで説明がつくものではなく、途方もなく大きな規模の創造的・革新的変化なのだとしています。この大規模な変化を突き動かすのは、以下に示す5つの要因による複雑な相乗効果です。

①テクノロジーの進化

②グローバル化の進展

③人口構成の変化と長寿化

④社会の変化

⑤エネルギー・環境問題の深刻化

そして、このような変化に対応するために、3つのシフトが提案されています。

①「ゼネラリスト」から「連続スペシャリスト」へ
→職業人生を通じて、自分が興味をいだける分野で高度な専門知識と技能を習得し続けること。

②「孤独な競争」から「協力して起こすイノベーション」へ
→友人関係や人脈などの形で人間関係資本をはぐくむこと。

③「大量消費」から「質の高い経験」へ
→所得と消費を中核とする働き方から、創造性と質の高い経験を大切にする働き方に転換。

この流れを『MAKERS』に繋いでみましょう。これは製造業における「これからの10年」についてが語られている本です。そこでの新しいムーブメントの特徴は以下の3つ。

①デスクトップとデジタル工作機械を使って、モノをデザインし、試作すること(デジタルDIY)。

②それらのデザインをオンラインのコミュニティで当たり前に共有し、仲間も協力すること。

③デザインファイルが標準化されたこと。おかげで誰でも自分のデザインを製造業者に送り、欲しい数だけ作ってもらうことごできる。また自宅でも、家庭用のツールで手軽に製造できる。これが、発案から起業への道のりを劇的に縮めた。

「これまでの10年」は、ウェブ上で創作し、発明し、協力する方法を発見した時代だった。いってみれば、ウェブで数多くの実験が行われていたともいえるでしょう。そして、「これからの10年」は、そこでの成果を「リアル」に当てはめていく時代になっていく。これが『MAKERS』の重要な主張の1つです。

『ワーク・シフト』と『MAKERS』の2冊を重ね合わせてみえてくるのは、より自由で強い個人とそれを活かすことのできるような環境が具体化した未来です。それは見方によると、今以上に激しい競争の中に個人が置かれるということもいえるでしょう。

けれどもそのような状態の中で、人間の人生観や幸福感みたいなものも変化していきます。『ワーク・シフト』で3つ目のシフトである「大量消費から質の高い経験へ」という項目がこれにが当てはまりますね。社会が変化していく中で人生観や幸福観も変化していくことになります。

もちろん、こんな批判もあるとは思われます。それはすなわち、これまでのように高度経済成長期に成立したライフモデルが、事実上、成立が難しくなっているために、ある種の撤退戦として、そのような価値観が生まれてきたのではないか、と。

確かにそれはそうです。けれども、それは今起こっている変化に限った適応ではありません。それは人間の歴史の中で繰り返されてきたことです。ただ、やはりそのような状況になるのであればそれに応じた形でのセーフティネットなどの制度面での対応は必要になるのだと思います。この点においては、その価値観の変化がまるでガス抜きのように使われることに関しては警戒した方がよいかもしれません。

例えばロスジェネの苦しみのように、バブル景気の残り香を嗅ぎながら、その中を生きることができなかった人たちの苦しみがどのように生産的な議論に繋がっていくのか。そこには多くの困難がありますが、そのようなセーフティネットなどの制度面への想像力の必要性を考えると無意味なことのようには思いません。

つまり、個人と制度面、両面での環境適応が必要だと思うのです。そして、その中で現在、まず個人の動きの方が先に目立ってきています。情勢分析の後、制度面より速く個人の動きによる適応が目立ってきたようにも見える。それらは見方を変えただけでそこまでドラスティックな変化でもないですが、ある種の危機意識から生み出されている動きでもあるでしょう。その点において、同じ個人の自由を強調していた90年代のフリーターブームとは異なる点なのかもしれません。

さて、次は国内の視点において気になった本を挙げていきます。えーと、ここでは1冊だけのご紹介となりますね。

 

2、日本国内の視点

 

ここで挙げたいのは、三浦展さんの『第四の消費』です。

まず、『第四の消費』について。この本は日本の消費社会におけるパラダイムシフトについて論じています。産業革命以後から現在に至るまで、日本の消費社会が4つの段階を経ているとしていて、現在の日本の第四の段階に来ているとしています。その4つの段階とは次の通り。

・第一の消費社会「national」(国家重視)
①都市部が中心。
②国民全体の一割か二割しかいなかったと言われる中産階級が消費を楽しむ時代。

・第二の消費社会「family」(家族重視、家族と一体の会社重視)
①家電製品に代表される大量生産品の全国への普及と拡大。
②全国のより多くの国民に消費を享受。

・第三「individual」(個人重視)
①家族から個人へ(一家に一台から一人一台へ)。
②物からサービスへ。
③量から質へ(大量生産品から高級化、ブランド品へ)。
④理性、便利さから感性、自分らしさへ。
⑤専業主婦から働く女性へ。

・第四「social」(社会重視)
①個人志向から社会志向へ、利己主義から利他主義へ。
②私有主義からシェア志向へ。
③ブランド志向からシンプル・カジュアル志向へ。
④欧米志向、都会志向、自分らしさから日本志向、地方志向へ(集中から分散)。

また、この消費に関する変化は雇用形態の変化にも対応しているとしています。

第二の消費社会ではサラリーマンになることが良しとされ、第三の消費社会ではサラリーマンを窮屈だと感じフリーターになる人間が増え、第四の消費社会ではサラリーマンでもなければフリーターでもない、安定と自由のバランスをとった働き方が求められている、と。そして、不安定な労働形態が増えてきたことと「シェア」や「つながり」が重視される社会になったことは無関係ではない推測しています。第四の消費社会の時代は、物のデザインではなく、人と人の繋がりのデザインが強く求められる時代なのです。

そこで、企業や行政、あるいは個人はどうしていくべきなのか。三浦さんは、その原理や原則は以下のようになると述べられています。

①ライフスタイル、ビジネス、まちづくりなど、社会全体をシェア型に変えていく。

②人々がプライベートなものを少しずつ開いていった結果、パブリックが形成されていくことを促進する。

③地方独特の魅力を育て、地方で活動するようになる。

④金から人へ、経済原理から生活原理への転換を図る。

この『第四の消費』における主張と先ほど挙げた『ワーク・シフト』でなされている主張の間に共通する傾向を確認することができるのは私だけではないでしょう。

 

3、個人の視点

 

個人の視点において挙げたいと思うのは、phaさんの『ニートの歩き方』と坂口恭平さんの『独立国家のつくり方』です。

まず、『ニートの歩き方』について。

必要最小限しか働かない、しかも働くにしても自分の嫌なことはしないというライフスタイルは如何にして可能なのか。この本のタイトルが意味しているのはそういうことだと思います。

近代化以前であれば自然が豊富な場所に住んで、山や海などで食べられるものを探して生きてくことも容易だったかもしれません。けれども、日々の生活を現代都市で営む私たちにとっては、そういった「海の幸」や「山の幸」をあてにして生活することは難しい。だから、日々の仕事でお金を稼ぎそれを使用してもモノを買い生活を成り立たせています。

それに対してphaさんが生活の糧を作り出すの場としているのはインターネットという「新しい自然」の中です。その新しい情報の生態系に分け入って、まるで森の中で果実を拾ってきたり罠を仕掛けたり狩りをしたりするように生活の糧を手に入れる。言うなれば、それは「ネットの幸」で生きる、ともいえるでしょう。この本の中では、コンテンツやウェブサービスに広告を張ったり、古本等の転売したりなど具体的な方法も紹介されています。

例えば、自分が欲しいものをどこかの誰かが必要なくて捨ててしまうことは世の中にありふれています。リサイクルショップとかが成立するのはそのような需要と供給があるからですね。

もし、この需要と供給がダイレクトに出会って情報を共有するのなら、そこには新たな人間関係やコミュニケーションという楽しみさえ発生する可能性があります。そして、趣味の合う人たちに出会い、一緒に住むまでに至ったりしている。いわゆるコンセプト型のシェアハウスの多くはそのような流れの中で生まれています。

こういう話をすると、これらが可能になるのはコミュニケーション能力の高い人たちだけであると思う人もいるかもしれません。けれども、いわゆるニート属性の強い人たちは、基本的に人間関係が苦手な部類の人が多いです。基本的には対人スキルは低いといえるのではないでしょうか。

けれどもだからこそ、「集まる」ことのメリットも生まれます。何故かというと、コミュニケーション能力の低い人はそれだけで孤立化する可能性が高いからです。集まること、ただ群れること。これは対人能力の低い人たちの生活の知恵でもあるといえるのではないでしょうか。

続いて、『独立国家のつくり方』にいきます。

3.11、つまり東日本大震災以降、日本ではそれまで上手く回っていると思われたシステムがどうも機能不全を起こしているということが、実感として受け止められる状況になってきました。そのため、様々なところで今までとは違う形での生き方や仕組み作りを考え実験する風潮が生まれてきています。

インフラなどが安定しているようにみえる社会システムは、様々な人々が何も考えなくても対応できるようなレイヤーであり、それは無意識化し匿名化した社会システムレイヤーです。しかし、そのレイヤーが信じられなくなってしまった今の時代、各々が自分の生き方を考え見つけなくてはいけなくなってきました。そこで、まず「生き方は無数にあるということを気付く技術」が必要となります。この本で示されているのは、その方法と実例なのです。

著者の坂口さんは、本書が書かれた目的は「経済」本来の意味を考えることにあるといいます。

経済(ECONOMICS)という言葉の語源は、「OIKOS+NOMOS」。「OIKOS」とは、家計、住む場所、関係を持つ場所などを意味し、「NOMOS」とは、習慣、法律、社会的道徳、古代ギリシャの行政区画のことを意味しています。つまり、「経済」とは「どうやって家計を成り立たせるのか」、「住まいとはどういうものなのか」、「そこでの共同体といかにあるべきか」を考えて実践する行為のことなのです。

この『ニートの歩き方』と『独立国家のつくり方』、この二つに共通して見えるのは、現在起こっている状況や環境に自らを適応させてサバイバルしていこうと
いう方向性です。

 

4.来年に向けて

 

 

さて、この5冊のレビューを通してある種の未来地図みたいなものがぼんやりと確認できるのではないでしょうか。この流れみたいなものは、来年も継続して続いていくことと思われます。

もちろん、このような時代の中でも手堅い選択はあり得ます、実際。ただ、そのような選択肢を選べる人はこの少子化の時代の中でも減少傾向が続いていくことが予測されます。今年の終わりに日本における政権が代わりましたし、来年からも様々な変化が起こってくるでしょう。

私たちは引き続き、様々な難しい選択の中に身を置くこととなると思いますが、そのような変化の時代にいるからこそ、短期的な利益だけではなく、遠く未来を見据えた選択を心がけられるといいなぁと思います。そして、その選択のプロセス自体が楽しいことであることが理想的ですね。

そんなところで今年最後のエントリを終わりたいと思います。

それでは、よいお年を!

 

【中川康雄(なかがわ・やすお)】
文化批評。表象・メディア論、及びコミュニティ研究。
インディーズメディア「未来回路」主宰。
時々、自宅ブックカフェやってます。
Twitter:insiderivers
個人ブログ:http://insiderivers.com

photo by: t.ohashi