「世界からセカイへ・・・とかの前にゾンビぼいんちゃんと結婚するのが怖すぎる件について」、『閉じこもるインターネット』(イーライ・パリサー 著) 評者:涌井智仁

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閉じこもるインターネット――グーグル・パーソナライズ・民主主義

 私の周辺の世界は結構不便だ。つまんない本屋、要領の悪い楽器屋、公園の犬の糞、騒々しい喫茶店。美大生の放埒で無聊な会話は本当に腹が立つ。超不便で超ファックだ。自分の志向性に対して、何の対象もないこの世界に、身勝手とは知りつつ苛立ちを感じざるをえない。

 だから、インターネットは好きだ。インターネットは私にとって”私を見つけてくれた世界”であるから好きだ。
 近年のインターネットは”私”にとって都合の良いよう意図的に成長していると、パリサーは言う。Googleはユーザーから個人情報という対価を払わせる事で、ユーザー各人に合わせた最良の情報を提供している。例を挙げれば、私のGoogleの検索履歴やGMAILから得たあらゆる情報をリソースとし、私が好きであろうアダルトビデオ(カップ数、性的思考、髪の長さ等々)を検出する機能である。まだ完全な状態ではないが、近い将来、言葉を用いずに素人ぼいんちゃんのビデオを延々と受容できる日が来る事は明白である。Amazonは積極的にこの「パーソナライゼーション」を取り入れた先駆的企業である。”表示履歴からのおすすめ”や”これにも注目”といった機能はトップページに表示され、ユーザーの購買意欲をかき立てている。
 パーソナライズドフィルターを通したネット世界は、”私”にとって都合のいい様に世界が変わってくれる夢のような空間である。Facebookにはいじめっ子のアイツがいないリベラルなクラスルームを作ってくれるし、twitterはより超俗的な情報生活を提供してくれる。我々が言語化できないファジーな感覚さえもコントロールしてくれるインターネットは、フラジャイルな現実世界や家族より、遥かに”私”の事を理解しているのだ。
 パリサーはこの恣意的なクリックや検索によって結果が決められていく(提供される)一連のドラマトゥルクが、情報決定論的に行為をループさせ、”私”が同じところを延々とぐるぐる回る状態(エンドレス・ミー)として危惧している。パーソナライゼーションの世界は他者や未知の情報に対し”私”を譫妄的にさせ、自己充足的アイデンティティを作り上げてしまう。つまり、インターネットによって作られた自分の像が本物の自分になってしまうのだ。被造物としての自己、契約された自己は、公共や他者を失い盲目的に安全圏を彷徨う「ゾンビ」のようなものである。我々にとってのソウルジェム(魔法少女まどか☆マギカ参照)がインターネットによって支配された時に生まれる”私”やセカイにどんな自由があるだろうか。我々がパーソナライズドフィルターを通して享受する自由とは、運命を自在に決定づけられる者の自由ではなく、引き起こす結果を知らずに判断を強制された者が不安を掻き立てられるような自由なのである。パリサーは本書の中でこう言う。

「創造力とは元々あった事実やアイディア、機能、スキルを発見し、選択し、入れ替え、組み合わせ、合成する物なのだ。」

 パーソナライズされた世界は、選択行為が恣意的であり、選択肢を分配する構造がレーニン主義的(ブラックボックス的)であるが故に、ぼいんなゾンビを数多く生み出す。寧ろ、映画ゾンビランド的なルールによって形成される盲目的自己解決の世界を創世する。確かに私は素人でぼいんな女の子は好きだが、私はまだ熟女の魅力を知らないだけで、その未知への創造力を捨ててはいけないのだ。そもそも自己充足的アイデンティティに犯されたゾンビぼいんちゃんが蔓延っていては、懐疑症で童貞脳の私はいつまで経っても”本当の素人ぼいんちゃん”は見つける事が出来ない。
 他者を認識し抗っていく力を持つ事がレヴィナスの言う他者論のポジティブな見解である。常に他者はうっとうしい者だが、私を作るのも他者なのだ。他者は、特定の個人に還元しえない厳密な意味での公的な領域である世間において生み出される。特定の個人しか持たず世間の無いパーソナライズされたネット空間には他者を失効させ隠蔽する力を持つ。この空間においては、他者は止まった存在として時間の流れに取り残されていくのだ。本当の他者に出会う事、これは課題だ。
 パリサーの言う”終わらない私”達の世界は今超ノリノリかつヤバい。とりあえず、Pocket Wi-Fiが超便利です。

【涌井智仁】

1990年新潟県川西町生まれ。東京都在住。多摩美術大学・美学校在籍。

ゆとり現代美術家兼ゆとりサウンドアーティスト。
映画・演劇等々の音楽・音響を作りながら生活。
最高の笑顔を目指しています。
twitter:HiZAKOZOX

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