「経済活動を根源から捉え直す」、『独立国家のつくりかた』(坂口恭平 著)

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独立国家のつくりかた (講談社現代新書)

 3.11以降、日本において、それまで上手く回っていると思われたシステムに無理がきているということが、実感として受けとられる状況になってきた。そのため、様々なところで今までとは違う形での生き方や仕組み作りを考え実験する風潮が生まれてきている。

 著者の坂口恭平さんは、その多くの試行錯誤の中でも先陣を切った1人と言っていいだろう。

 インフラなどが安定しているようにみえる社会システムは、様々な人々が何も考えなくても対応できるようなレイヤー(層)であり、それは無意識化し匿名化した社会システムレイヤーだ。しかし、そのレイヤーが信じられなくなってしまった今の時代、各々が自分の生き方を考え見つけなくてはいけなくなってきた。そこで、まず「生き方は無数にあるということを気付く技術」が必要となる。本書で示されているのは、その方法と実例でもある。

 坂口さんは、本書が書かれた目的は「経済」本来の意味を考えることにあるという。

 経済(ECONOMICS)という言葉の語源は、「OIKOS+NOMOS」。「OIKOS」とは、家計、住む場所、関係を持つ場所などを意味し、「NOMOS」とは、習慣、法律、社会的道徳、古代ギリシャの行政区画のことをいう。つまり、「経済」とは「どうやって家計を成り立たせるのか」、「住まいとはどういうものなのか」、「そこでの共同体といかにあるべきか」を考えて実践する行為のことなのだ。
 それは「社会を変える行為」であり「芸術」である。ここに「芸術=経済」という公式が成り立つのだ。つまり、「芸術=住まいの在り方を考える行為、共同体の在り方を考える行為」である、と。

 匿名化したレイヤーの社会システムを把握し、区別し、各々が発見した独自のレイヤー同士を結び合わせながら、社会を形成していくこと。これが坂口さんがいう「新しい経済(共同体の在り方)」の作り方なのだ。
そして、匿名化されていない個々人のレイヤー同士が結びつく時に「交易」が生まれ、独自の経済(生活の在り方)同士がそれぞれの態度を媒介として交感し合う。それを本書では「態度経済」と定義している。

 ここ最近、「ノマド」論争など様々な生き方を巡る空中戦が繰り返されている中で、本書はプリミティブで手触り感のある、つまり根源的なレイヤーによって書かれている。それゆえ「経済」のことを語っているのにも関わらず、「0円」でもあるのだ。

 今書かれるべき、かつ、多くの人に読まれるべき本だろう。

 

【中川康雄(なかがわ・やすお)】
文化批評。表象・メディア論、及びコミュニティ研究。
未来回路製作所主宰。
個人ブログ:https://insiderivers.com

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