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この記事の所要時間: 227

あの日、僕は旅に出た

表紙をめくると頭で考えるよりも先に、身体が反応する。そこにはビザや出入国のスタンプが所狭しと詰まっている。僕はパスポートにビザやスタンプが沢山並んでいることに、そんなに価値を置いているわけではない。著者の蔵前さんもその点は同じなのではないかと思う。けれども、それでも、そのひとつひとつに様々な出来事や感情が込められているのが伝わってくるのだ。それらひとつひとつが、政治、経済、法律、歴史、個人の物語の交差点でもある。

本書は蔵前さんの旅の始まりから雑誌『旅行人』を休刊するまでの30年間を綴ったものである。その個人史がビザや出入国のスタンプがひしめき合っているパスポートのページにサンドされている。

「旅行人」のガイドブックには本当にお世話になった。僕にとって長期旅行の始まりはガイドブックはおろか地図すら持たずに香港に飛んだことだったが、自力で評判のいいホテルやレストランを探したり、交通手段を手探りで見つけるのはあまりにコストがかかりすぎたため(実際、結果的に多くの出費を必要とした)、旅が続くに連れ次第に自分でMAPを買うようになり、現地で『lonely planet』を探したりして旅をしていた。そして、その最初の長期旅行のあと、次に旅に出る頃には事前の準備をある程度するようになっていた。その中で一番お世話になったのが「旅行人」のガイドブックだったのだ。『メコンの国』、『アジア横断』、『チベット』。もうすでに一般観光客をメインターゲットに据えていた『地球の歩き方』ではなく『旅行人ノート』を携えていることは、多くの旅人にとって特別な記号を持つということだった。その本を持っていることが同じ物語を有しているということでもあったのだ。

そして、そのベースには蔵前さんの存在がある。本書の帯に書かれている石井光太さんの「日本人旅行者は、蔵前仁一さんが描いた〈旅〉をたどっているだけなのではないか。」という言葉は実感を持って受け取ることができる。本書の中で語られている長いミニコミ時代の話、採算の合わなかった本の話などを読んでいるうちに、本当に「旅行人」があって良かったと思った。何故なら、その存在は結構ぎりぎりな感じで偶然を多分に含んだ上で成立していたからだ。

たぶん、僕がバックパッカー旅行の中で得たもので1番大きなものは、受けた恩や感動に如何に報いることが出来るかを考えることだ。それは本人に返す、というだけでなく別の人にも返していくことでもある。楽しいと思えることをトコトンやる。そして、それを他の誰かに伝える。僕は旅をこれからも続けていくと思うが、その点において、とても蔵前さんに追いつくことはできない。

以上。

【中川康雄(なかがわ・やすお)】
表象・メディア論、及びコミュニティ観察。
インディーズメディア「未来回路」主宰。
Twitter:insiderivers
個人ブログ:https://insiderivers.com

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