読み始めてすぐ、坂口恭平の友達である「タカちゃん」の存在に興味が湧いてくる。そのきっかけは彼がトカゲを飼っていた、というエピソードからだ。僕も子どもの頃にトカゲを飼っていた友達がいたのだ。彼は家でイグアナを2匹飼っていて、遊びに行くといつもそのイグアナに出くわしていた。その二匹はそれぞれ「イグ」と「グア」という名前だった。このイグアナを飼っていた彼は、両親が離婚していて母方の両親の家で暮らしていた。その後、彼は福岡にある大学を卒業し、何故か某有名ラーメンチェーン店に就職。そして、いつの間にかそのラーメン屋のニューヨーク支店で働くようになっていた。その彼のイメージと本書に登場する「タカちゃん」のイメージが僕の中で重なったのだ。本書を読んでいくという行為は、自分自身の「幻年時代」の探索でもあった。
ドブ川の冒険、ファミコン、アリ地獄。これら全てに僕自身にも思い出がある。もちろん、それらを巡るエピソードは個別に異なるけれども、今でも明晰に覚えている。寿屋というデパートにしたってそうだ。
都市部とは違う幼少の体験を自らの内でしっかり構築していくことは、たぶん多くの人たちにとって必要なことだ。何故ならば、都市部に住む地方出身者はその幼少の頃の記憶をベースに自らを建築しているのにも関わらず、それらの記憶を何らかの形で切断し隠蔽しているように思えるからだ。しかし、そこには全ての始まりがつまっている。その記憶に向き合うこと。そのことによって眠っていたポテンシャルを覚醒させるような感覚を持つに至ることも可能だろう。単一的な歴史に閉じ込められた複数形の歴史が蠢き出す。地方出身者で現在、都市部で限界を感じている人にとっても必読の小説だ。
ただ、タカちゃん。ガガンボは人を刺したりしない。蚊が大きくなったような姿をしてるから、不安や恐怖を演出する対象になったのだろうけど、もし刺すならそれ、ガガンボやない。たぶん、アブとかブヨとか別の生き物や。ガガンボに謝らなあかん。濡れ衣やで。僕も子どもの頃、生き物博士的な存在だったので、作中でのガガンボの扱いはちょっと気になった。
(了)
【中川康雄(なかがわ・やすお)】
表象・メディア論、及びコミュニティ観察。
インディーズメディア「未来回路」主宰。
Twitter:insiderivers
個人ブログ:https://insiderivers.com
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