「消費社会におけるパライダムシフトの物語」、『第四の消費』(三浦 展 著)

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第四の消費 つながりを生み出す社会へ (朝日新書)

 日本の消費社会におけるパラダイムシフトについて論じている。

 通読すると、近年見かけることが多くなった「ノマド」や「シェアハウス」、「コワーキング」といったキーワードも違って見えてくるかもしれない。何故なら、それらが歴史的な必然性の中でクローズアップされている、ということを確認することができるからだ。

 本書では、産業革命以後から現在に至るまで、日本の消費社会が4つの段階を経ているとしている。第一から第四の消費社会までの特徴を概観すると、以下のようになるだろう。

・第一の消費社会「national」(国家重視)
①都市部が中心。
②国民全体の一割か二割しかいなかったと言われる中産階級が消費を楽しむ時代。

・第二の消費社会「family」(家族重視、家族と一体の会社重視)
①家電製品に代表される大量生産品の全国への普及と拡大。
②全国のより多くの国民に消費を享受。

・第三「individual」(個人重視)
①家族から個人へ(一家に一台から一人一台へ)。
②物からサービスへ。
③量から質へ(大量生産品から高級化、ブランド品へ)。
④理性、便利さから感性、自分らしさへ。
⑤専業主婦から働く女性へ。

・第四「social」(社会重視)
①個人志向から社会志向へ、利己主義から利他主義へ。
②私有主義からシェア志向へ。
③ブランド志向からシンプル・カジュアル志向へ。
④欧米志向、都会志向、自分らしさから日本志向、地方志向へ(集中から分散)。

 現在、日本はこの第四の段階に入った、というのが本書のテーマだ。

 また、この変化の変遷は雇用形態の変化にも対応しているという。
第二の消費社会ではサラリーマンになることが良しとされ、第三の消費社会ではサラリーマンを窮屈だと感じフリーターになる人間が増え、第四の消費社会ではサラリーマンでもなければフリーターでもない、安定と自由のバランスをとった働き方が求められている。そして、不安定な労働形態が増えてきたことと「シェア」や「つながり」が重視される社会になったことは無関係ではないというのだ。第四の消費社会では、物のデザインではなく、人と人の繋がりのデザインが強く求められる。

 そこで、企業や行政、あるいは個人はどうしていくべきなのか。その原理や原則は以下のようになると述べられている。

①ライフスタイル、ビジネス、まちづくりなど、社会全体をシェア型に変えていく。
②人々がプライベートなものを少しずつ開いていった結果、パブリックが形成されていくことを促進する。
③地方独特の魅力を育て、地方で活動するようになる。
④金から人へ、経済原理から生活原理への転換を図る。

 非常に理路整然としており、理解しやすい。実際の調査に基づいた結果でもある。私たちが今どのような時代の中を生きているのか、そのビジョンを示してくれている。

 けれども個人的には、この論の前提としている枠組みの外に関心を駆り立てられるところもあった。その枠組みとは、取り扱う動向を日本国内のみに留めている、というところだ。そのことは、はっきりと明言された上で論が展開している。第四の消費社会における特徴とされている日本志向、地方志向も、ここに範囲を限定する根拠もあるともいえるだろう。

 しかし、特徴とされている国内志向とは別のベクトルが、この時代の新しい潮流の中にはあるのではないだろうか。それは「ノマドワーカー」や「シェアハウス」といった文化が、今育てているライフスタイルでもある。地方志向とは必ずしも日本の国内に限定されるものでもないだろう。場所に対する自由度を高めることも重要視されるから、国内に留まり続けることも少しずつ希薄化していくかもしれない。

 その時にやはり国外の状況の把握も重要になってくるだろう。消費の動向、産業の動向を国際情勢の中で位置付けるとどのようになるのか。今どこで暮らすのがベストなのか。その状況把握をすることは、おそらくこれからのライフスタイルの可能性を考えた時に重要なことのように思われる。今後、日本を一つのシステムと見ると同時に、国際的なシステムの中での位置を考えることは当然のこととなっていくのではないだろうか。

 それぞれの地域における情報環境や時代状況など。本書が展開する論を演繹してみると、消費社会における4つの段階はどこの地域も遅かれ早かれ踏むことになるのかとか、そうだとしたら、日本企業は第4の消費社会に対応した会社は日本に留まり、そうでない会社は国外を主戦場にしていき、遠い将来、この星のどこの地域においても、この第四の消費社会の状態が到来する時代が訪れるのだろうか、とか、様々な問いが生まれてくる。
 国内外を含めた上で、「移動」をスムーズに進められるようになるためには、様々な実験やそれに伴うコンフリクトが予想される。例えば、言語、法律、風習の問題など。これまでの社会を前提とした法や制度によって現在もこの社会は運営されているが、実状が変化しそこに住む人たちの生活の前提が、その法や制度にマッチしなくなってしまった場合、やはり、改めてその整備を行う必要が出てくるだろう。このように新たな問いや思考が生まれるのは、本を読むことの楽しみのひとつだ。

 現在、色々と議論を起こしているライフスタイルは、情報環境の発展や市場の問題が基底にあるのは確かだが、そこはかとなく旅人の文化、もっといえばバックパッカー文化との親和性を持っている。私自身、旅を一時休止して日本社会に戻ってきたという意識を若干持っていることもあり、旅をしながらサスティナブルで充実した生活が送れることを目指す方向には好感を持っている。だから、本書の分析から、その枠組みの外に想像力がかきたてられたのかもしれない。

 

【中川康雄(なかがわ・やすお)】
文化批評。表象・メディア論、及びコミュニティ研究。
未来回路製作所主宰。
個人ブログ:https://insiderivers.com

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