「私たちの食文化を深いところで豊かにする」、『大衆めし 激動の戦後史』(遠藤哲夫 著)

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大衆めし 激動の戦後史: 「いいモノ」食ってりゃ幸せか? (ちくま新書)

街を見渡すと、本当にたくさんの飲食店が視界に入ってくる。インドやタイ、中国、イタリアなどの様々な地域に由来する料理や、ハンバーガーや牛丼などのファーストフードまで、実に多種多彩だ。日本国内であるのに、日本料理は複数あるジャンルのひとつで、マイナー料理の感すらある。

外食文化は社会システムの中で形作られ、国や地域によって大きく異なっている。例えば日本において、共働きや単身者が増加していることは、外食文化に大きな影響を与えているだろう。多くの時間を仕事に割いていると、食事を自分で作るのは手間がかかるし1人だと自炊は割高にもなる。効率の面からみて、そのような社会の中では外食文化が育つのは必然ともいえる。

しかしそうなってくると、食事全般を専門家に委ねることになってくる。もちろん、高い水準の料理をコンスタントに食べることができる環境は素晴らしい。けれども、そこに全面的に頼ることによって、ある種のバランス感覚や能力を失うこともあるのではないだろうか。つまり、タコツボ化が進み、全体像の把握が困難になったりするということは、ここ近年の私たちの住む社会の中で問題とされるものでもあったように、同じことが食事に関しても起こっているのではないか、ということなのだ。

私たちは「世界システム」の中で食べている。経済や政治、流通など様々な要素によって、食べることは構成されているのだ。しかし、著者は本書の中で、次のようなことの必要性を呼びかける。「食べるということを自分の生活の中で血肉化、思想化すること」。それが私たちの食文化を深いところで豊かにするからだ。本書ではその始まりとして、まず台所に立つことを勧めている。

(了)

【中川康雄(なかがわ・やすお)】
表象・メディア論、及びコミュニティ観察。
インディーズメディア「未来回路」主宰。
Twitter:insiderivers
個人ブログ:https://insiderivers.com

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