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人生で大切なことはラーメン二郎に学んだ (光文社新書)

二郎系のラーメン屋には、今まで3軒ほど訪れたことがある。2軒は二郎直系の店、そしてもう1軒は二郎インスパイア系と呼ばれる店だ。二郎直系に関してはあまりピンとこない、というのが正直なところだった。むしろ、インスパイア系の方に惹かれるものを感じていたくらいだ。本書を読んでその理由がわかった気がする。その理由は二郎系のインディー精神にあった。

二郎系ラーメンの物語は、非常に強い波及力を持っている。二郎自体はメディアを露出を控えるという方針なのだが、だからこそ口コミでの爆発的な波及が生まれているようだ。それは一種の内輪の盛り上がり的なもので、私自身がその内輪の盛り上がりに乗れなかったのは、二郎のラーメンそのものよりもその物語に乗っていくことへの快楽が勝っているように感じられたからだ。あまりメディアに露出しない物語を共有すること。それは一種のコミュニティへの欲望と言い換えてもいい。

本書でも指摘されているが、その受容のされ方はアイドル文化との類似点が認められる。二郎系の店舗はそれぞれ個性的であることが特徴となっていて、つまりはどの店を「推す」かということなのである。「二郎はラーメンではない。二郎という食べ物である」という有名な言葉は、そのまま、プラットホームとしてのAKB48とも重ね合わせることができるだろう。

本書では様々なエピソードが語られているが、その中で最も印象的だったのは、経済学者の牧田さんのエピソードだ。牧田さんは、はじめて二郎に訪れた時、人生に挫折し思い悩んでいた。そして、眼前の山盛り状態のラーメンに対峙し、その量に負けそうになった。そして、「自分はラーメンひとつ、最後まで食べることができないのか。自分には何も成し遂げられない」、と涙を流したという。けれども、泣きながら最後までそのラーメンを完食することによって大きな達成感を得て、自らの人生に向き合うことができたというのだ。

本書において二郎のラーメンは、巨大迷路に例えられている。その例えによって、今まで見聞きした二郎についての情報が腑に落ちるものになった気がした。とりあえず改めて、近日中に近くの二郎系の店に行ってみようと思えた一冊だ。ちなみに本書は、お笑い芸人の方が執筆されている。その点も特筆すべきところだろう。

(了)

【中川康雄(なかがわ・やすお)】
表象・メディア論、及びコミュニティ観察。
インディーズメディア「未来回路」主宰。
Twitter:insiderivers
個人ブログ:https://insiderivers.com

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