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この記事の所要時間: 1137

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さて、今年最後のエントリです。

2013年に書いたレビューを振り返りながら、未来への航海のための星座を描いてみたいと思います。

 

1.「次の世代に繋いでいけるサスティナブルな社会設計の必要性」、『日本人はこれから何を買うのか?』(三浦 展 著)https://miraikairo.com/?p=1165

現在、日本人のライフスタイルとそれに伴う消費傾向が大きく変化しています。本書では、現在、顕著になりつつある消費傾向を「おひとりさま」と呼び、その変化に対応したインフラやサービスがこれから必要になってくると指摘しています。そこで必要になってくるとされているもののひとつのは「コミュニティビジネス」と呼ばれるもの。例えば、シェアハウスによるコミュニティ作りなどがそれにあたります。本書では、そのシェアのイメージを街自体にまで広げていき、未来のビジョンを描いています。

 

2.「もうひとつの『成熟』の物語」、『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(村上 春樹 著)https://miraikairo.com/?p=1197

本書は「共同体」を巡る冒険と読むこともできます。主人公は「共同体からの排除」されたという経験を持ち、そのことに対して喪失感を抱えていますが、物語が進むにつれてその排除と考えていたことが、形を変えた「共同体」の継続だったということに気付いていきます。「共同体」に人を結び付けるのは、温かさだけでなく傷や痛みによってでもある。その意味を考えるきっかけになるかもしれません。

 

3.「『虚構』と『現実』における境界の融解と進化するマーケティング技術の関係」、『のめりこませる技術』(フランク・ローズ 著) https://miraikairo.com/?p=1272

マーケティングにおいて「参加させる」という技術の必要性が大きくなっています。ブランドは「ゲーム」を仕掛け、「ゲーム」は「物語」を紡ぎ出し、消費者を巻き込んでいくのです。「現実」と「虚構」の境界が曖昧になったこの世界の中で、この進化し続ける「のめりこませる」技術をどのように扱っていけばよいのかということは、これからの僕たちの社会生活においても有効な問いだと思われます。

 

4.「新しい世界システムと情報インフラの関係」、『レイヤー化する世界』(佐々木 俊尚 著)https://miraikairo.com/?p=1291

情報インフラの開発、つまりインターネットによって新たな脱国家的な〈場〉が提供され、全てがグローバルなレベルでのレイヤー構造に組み換わっていく。それが本書のタイトルの意味するところです。これから世界はそれぞれの国民国家という縦割りの枠組・構造ではなく、横に繋がる複数のレイヤーによって再構築されていくとされ、著者はそれを「レイヤー化」と呼んでいます。

 

5.「『ポスト地元の時代』の世界観にみる『新しい公共』の萌芽」、『地方にこもる若者たち』(阿部 真大 著) https://miraikairo.com/?p=1314

本書ではこの30、40年間における日本の社会と文化の変遷を描きながら、これから地方都市で「新しい公共」が育っていく可能性について考えています。そこで重要なのは、「他人のことは分からない」という前提をもちながらも、「他人とぶつかり合いながら自分たちを高めていく」という世界観を持っている若者たちだとしています。現在、「こもっている」若者は「同化」ではなく「分離」の段階にあるのは確かだけれども、それは社会の多様性を認識した上で「こもる」ことを選択しており、その状態は「統合」に向けた準備ができているということを意味しているのではないかと本書は問いかけています。

 

6.「戦前時における欲望と諦念の先に見える風景」、『風立ちぬ』(宮崎駿 監督) https://miraikairo.com/?p=1644

ピラミッドのある世界とない世界。それは貧富の差のある世界か否かという選択でもあり、頂点に存在する者が夢をみる世界かどうかいう選択でもあります。エゴや美学、そしてそこに巻き込まれるかもしれない他者。本作品は多くの人たちが楽しむことができるものですが、そこにある問いは他のジブリ作品以上にシリアスなものがあります。

 

7.「現代文明を鮮やかに鳥瞰する」、『アンドレアス・グルスキー展』(国立新美術館) https://miraikairo.com/?p=1666

アンドレアス・グルスキー(Andreas Gursky)は、ドイツの写真家。2012年11月の作品「RehinⅡ」は430万ドルで落札され、写真作品としては史上最高額が付いたことでも有名です。先端技術産業やグローバル市場などをデジタル技術を駆使した画面構成で表現する巨大な作品で知られています。彼の作品には人類が位置している文明の現在形が鳥瞰されていると言っていいでしょう。

 

8.「浮上するグローバル文明における二つの未来像とその選択」、『サイファーパンク』(ジュリアン・アサンジ 著) https://miraikairo.com/?p=1697

民主主義の未来に寄与するものと思われていたインターネットという情報技術は、現在、人類史上最も危険な全体主義の尖兵へと変化しつつある、という認識のもとで書かれた本です。タイトルにもなっている「サイファーパンク」とは、一般市民が強力な暗号を利用することによって、国家による検閲から個々人のプライバシーや匿名性を確保し、国家が個人に及ぼす監視やコントロールを抑制した自由でオープンな社会を目指す思想のことをいいます。「弱者にプライバシーを、権力には透明性を」。この言葉の持つ重みは今からさらに増していくかもしれません。

 

9.「孤立の一般化が広がる背景にあるもの」、『孤立無業(SNEP)』(玄田有史 著) https://miraikairo.com/?p=1701

「孤立無業」とは、「20歳〜59歳で未婚の人のうち、仕事をしていないだけでなく、普段ずっと1人でいるか、もしくは家族しか一緒にいる人がいない人たち」のことを言います。現在、誰でも無業者になれば孤立しやすくなるという「孤立の一般化」が広がりつつあるとされ、その傾向は先ほど挙げた『日本人は何を買うのか』とも共通するものであるといえるでしょう。本書では、「SNEP」の増加に歯止めをかけるために必要な支援活動として、「アウトリーチ」という専門家が自ら出向いて支援する取り組みの必要性が説かれています。

 

10.「綻びから生まれた問いから新たな都市をつくる」、『モバイルハウス 三万円で家をつくる』(坂口恭平 著) https://miraikairo.com/?p=1706

現在、建築物は多く余っているのに、いつまでも同じ方法論で作り続ける建築業界に疑問を持った坂口さん。そんな彼は路上生活者の家と出会い、別の「住まい」のかたちを発見していきます。そこに現代社会のサバイバル技術を見出すのです。公園、図書館、カフェなど言ってみれば生活のシェアの観点から都市の構造やそれが伴う幸を眺め、それを坂口さんは「一つ屋根の下の都市生活」と呼び、そこから「新たな公共」や「自治」の可能性を紡ぎだそうとしているのです。この街をシェア型に変えていくという発想は、三浦展さんやアサダワタルさんの「住み開き」などとも共通するところですね。坂口さんの特性を挙げるなら、それらの思考や活動が結果、今の単一的な都市生活とは別の有機的に構築されたレイヤーを形成していくということではないでしょうか。

 

11.「世界の豊かさを引き出すノンフィクション」、『世界の美しさをひとつでも多く見つけたい』(石井光太 著) https://miraikairo.com/?p=1762

著者にとってノンフィクションの魅力は、現場に赴き当事者と会いコミュニケーションをしていく中で、その人たちを支えている「小さな神様」や「小さな物語」に出会うこと。ただ表面を撫でるだけでは分からない「襞」を押し広げ、その中に見出した「現実」に驚き戸惑い、心を突き動かされ、それを共有すべく文字を書き写真を撮る。単純化ではなく複雑さの開示こそが、ノンフィクションの営みなのです。

 

12.「近代政治哲学の欠陥に対する哲学者としての応答責任。」、『来るべき民主主義 小平市都道328号線と近代政治哲学の諸問題』(國分功一郎 著) https://miraikairo.com/?p=1783

この国の主権者は民衆であることは法的には定められています。けれども現実は、行政が執行する以上に決定権を有しています。そして、行政は執行機関に過ぎないという前提があるため、主権者たる民衆はそこにアクセスできない仕組みになっているのです。つまり、主権者たる民衆は、実際の決定過程からはじかれているというのが現状でしょう。そのような状況から僕たちの社会を「民主主義」の理想に近づけるにはどうすれば良いのか。それは立法権だけでなく、行政権にも民衆が関われる制度を整えていくことであると著者は考えています。そのための思考実験と実践の軌跡がここにまとめられています。

 

13.劇評「異郷の痕跡を辿り、東京の物語を多孔化する旅」、『東京ヘテロトピア』(Port B) https://miraikairo.com/?p=1893

心理学で「地」と「図」という概念があります。ある事象が他の事象を背景として浮き上がって知覚されるとき、前者を「図」といい、その背景となっているものを「地」というのです。日本における外国人、特にアジア系の人々の生活は、この「地」のような存在といえるでしょう。それはつまり、「ここにいるのにいないように扱われる」ということでもあるのです。port Bの「東京ヘテロトピア」は、その「地」の部分、この日本を構成しているにも関わらず背景のように意識的に知覚されることのない複数の点を繋ぎ合わせ、それを体験する観客の中に別の「図」を浮かび上がらせていく試みと呼べるものだと思います。

 

14.「思考を継続させることの必要性の前提に立ち返るために」、映画『ハンナ・アーレント』(監督:マルガレーテ・フォン・トロッタ) https://miraikairo.com/?p=1912

私たちはある残虐な行為の存在を知った時、それは特殊なケースなのだと思いたがります。ナチス・ドイツによる組織的なユダヤ人虐殺の責任者であるアイヒマンがエルサレムで裁判にかけられた時、多くの人々はそこに特殊な「悪」のかたちがあることを望みました。もちろん、そこで行われたことは史上最悪とも言えるもので、そう考えるのは当然といえるでしょう。けれども、その裁判でアーレントの目に映ったその人物は、驚くべきことに実に凡庸な人間だったのです。「悪の凡庸」。その現象をアーレントはそう呼びました。そして、僕たちはその「悪の凡庸」さと無関係ではいられないのです。

 

15.「『当事者』という言葉の持つ広がりをみつめる」、『シチュエーションズ 「以後」をめぐって』(佐々木敦 著) https://miraikairo.com/?p=1944

本書における「当事者」とは以下のように把握されています。僕たちは全きの当事者でも非当事者でもいることはできない。その間にある無限のバリエーション、グラデーション、シチュエーションの中に、「わたし」という当事者は置かれている。本書では「距離」という言葉が重要な概念として扱われており、日本に一度も訪れたことのないオーストリアのウィーン在住の劇作家・エルフリーデ・イェリネクの「3.11」への応答として発せられた突き刺さるような戯曲「光のない。」などを示しながら、「距離」と「当事者」であることの関係を浮かび上がらせています。「当事者」であるとはこの「わたし」であり、その複数形である「わたしたち」が時代の空気や何らかの大きな力によって一元化されるのではなく、真に複数の状態で「わたしたち」であろうとすることの根拠をこの「当事者」という概念にみるのです。

 

16.「食べ物でポップなテイストの政治思想を語る」、『フード左翼とフード右翼』(速水健朗 著) https://miraikairo.com/?p=1971

本書では現代日本の「食」の在り方の最先端は、二極化しているとされています。具体的には、「地産地消」「スローフード」的な方向と「メガマック」「メガ牛丼」といった「下流」に向かう方向で、それぞれの極に位置する人々を「フード左翼」「フード右翼」としています。このように「食」の在り方を思想的にマッピングすることによって、現代日本の政治意識を探るというのが本書の狙われていることです。消費行為は、その商品を作り出しているシステムや産業、そしてそこで働いている人々を支持することに直結し、それ自体が投票行為にも似るものとなっています。そのことをもう少し僕たちは意識したほうが良いのかもしれません。

 

さて、ザッと2013年のレビューをピックアップしてまとめてみました。来年、2014年はどのような作品たちが世に放たれていくのでしょうか。今からとても楽しみです。

それでは皆さん、良いお年を!

(了)

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