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走れ!移動図書館: 本でよりそう復興支援 (ちくまプリマー新書)

著者の鎌倉さんは、現在、東日本大震災図書館事業のアドバイザーで、シャンティ国際ボランティア会(以下、シャンティ)で広報課長をされている方。本書は、そのシャンティが行う「走れ東北ー移動図書館プロジェクト」の紹介や報告が内容の中心となっています。

著者は「本書で伝えたいことは二つある」といいます。

ひとつは、移動図書館プロジェクトの立ち上げについて。企画のはじまりから実際に移動図書館が走り出すまでのプロセスが、とても分かりやすく紹介されています。もうひとつは、本の持つチカラについて。被災地でどのような本が手に取られ、なぜ読まれたのかについてが、実際のエピソードとともに語られ、本のチカラの可能性が展開されています。

本書を読んでまず感嘆させられるのは、その活動を行う上での現場への丁寧さ、繊細さです。シャンティが阪神・淡路大震災の経験をまとめて出版した『混沌からの出発』の中にある「緊急救援時における10カ条」にもすでにその繊細さは現れていて、それが多くの経験の中でゆっくりと育てられたものであることが想像されます。

あと、突飛かもしれませんが、読みながらなぜか私が思い出したのは、浦沢直樹さんの漫画『マスターキートン』のあるエピソードです。

それは主人公・キートンがオックスフォード大学の学部生時代の頃の恩師であるユーリー・スコット教授のエピソードです。スコット教授はナチスドイツがロンドンを空襲し大学が焼けたときも、「さあ、諸君、授業を始めよう。あと15分はある。」「敵の狙いはこの攻撃で英国民の向上心をくじくことだ、ここで私達が勉強を放棄したら、それこそヒトラーの思うツボだ。今こそ学び、この戦争のような殺し合い憎しみ合う人間の愚かな性を乗越え新たな文明を築くべきです。」と学生たちに語りかけ授業を続けます。

MASTERキートン 2 完全版 (ビッグコミックススペシャル)
浦沢 直樹 勝鹿 北星 長崎 尚志
小学館 (2011-08-30)

確かにこのエピソードと震災とは状況は全く違うでしょう。フィクションとノンフィクション、人災と天災という違いもある。しかし、復興というものが、衣食住の充実だけにあるのではないということが、私の中で共振したのです。人にとって、知識とは文化とは何なのか。それはただ生活に彩りを与えるだけのものではないのではないか。そのことを考えることは、震災の地から少し離れたこの東京の街でも、またもっと離れた様々な場所でも、大切なことなのではないでしょうか。

キートンはスコット教授の「人間はどんなところでも学ぶことができる。知りたいという心さえあれば……」という言葉に後押しされ人生の大きな決断をします。移動図書館もきっと、そのような言葉との出会いを運んでいる、そんな空想をしながら読みました。

走れ!移動図書館: 本でよりそう復興支援 (ちくまプリマー新書)
鎌倉 幸子
筑摩書房
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(了)

【中川康雄(なかがわ・やすお)】
表象・メディア論、及びコミュニティ観察。
インディーズメディア「未来回路」主宰。
Twitter:insiderivers
個人ブログ:https://insiderivers.com

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