「メタフィクション」から「パラフィクション」へ。なんて言い方をすると、もしかしたら読者は、新しい時代の萌芽のようなものを言い当てることが、本書の趣旨のように思うかもしれない。「〜から〜へ」という表現は、新しい時代の到来とその特徴を記述する際の煽り文句として使用されることが多いからだ。
確かに著者は、本書の目的を「メタ」と「パラ」の境界を画定することだと述べているし、近年の特徴的なテクストを解読することに多くの紙面を割いてもいる。けれども、ここで探り当てようとされているのは、新旧をシャープに切り分けるような時系列に基づいた単純な物差しではない。
2つのフィクションのジャンル、「メタ」と「パラ」は、いつの時代においても、あらかじめテクストの内部に、ともに存在しているものなのである。この2つは同根なのであり、テクストの発生と同時に生まれた「読者」と「作者」との関係のあり方のことなのだ。だから、本書の記述が扱うのは、一過性のブームのようなものではないと言っていいだろう。
その分、スッキリした見取り図を求める読者にとっては、モヤモヤ感を残す内容でもあるかもしれない。なぜならば、著者は、分かりやすい形での図式を明示することを、注意深く避けているようにみえるからである。
何故、図式化を避けるのだろうか。その理由は、本書の採用している「作品分析」という手法とも深く関わっている。
「環境分析」ではなく、敢えて「作品分析」という手法をとることで、テクストにおける「読者」と「作者」の関係が、よりクリアに像を結ぶのだ。読むことを記述していく中で、「パラフィクション」を批評によって演じていくのである。その中で、「パラ」の側面が表立ってきた環境要因も匂わされてもいる。
本書のタイトルである「あなたは今、この文章を読んでいる」というフレーズは、読者において、常に「今この時」に更新され続けるものである。つまり、このフレーズ自体が、「読者の力を借りるフィクション」の端的な「パラ」フレーズとなっているのである。
慶應義塾大学出版会
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(了)
【中川康雄(なかがわ・やすお)】
表象・メディア論、及びコミュニティ観察。インディーズメディア「未来回路」。
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