1.日本における「近代 未完のプロジェクト」
日本の近代は社会を作り損なっている。
そのことは、SNSが当たり前のように使用され、多くの人がつながっている情報環境にある現在、これまで以上に際立っているのかもしれない。それは「ソーシャル社会」という言い方が成立することにも現れているのかもしれないし、SNSが「空気」を読み合う場所になっていることにも関係があるのかもしれない。
しかも、その「空気」は「世間」ではない。例えば、柳田国男は「世間」というものを、「空気」に代表されるような「ムラ」社会よりも大きな枠組みとして捉えていた。つまり、現在の日本の状況は、「社会」もなければ「世間」も上手く機能していない「ムラ」社会の集合体ということなのかもしれない。
本書では、「社会」とは生存競争がもたらす問題を解決する主体である、としている。それは今の日本には充分な形で存在していないだろう。つまり、私たちの「社会」には、未だ主体がないのである。私たちは未だに、柳田が語った当時と同じように「公民として病みかつ貧しい」ままなのだ。
2.柳田国男の再評価
柳田という人は、この日本という国が「社会的」になるためにはどうしたら良いのかをずっと考え続けた人だ、と著者はいう。その方策として、自分の学問を作り続けていた人なのだ。
だから、彼の民俗学は、「社会をつくるツール」として一貫して設計されている。その遺産の重要性を再評価し活用していくこと。そのことが日本が「社会」に向き合おうとする時の手掛かりになるのではないか、というのだ。
私たちは今、さまざまな文化的な水脈を眠らせたままでいる。それらを覚醒させ育てていくことが出来れば、もしかしたら、未来は今とは大きく変わっていくのかもしれない。そして、それが出来るのは、その可能性を少しも疑うこともなく向き合うことのできる人たちなのかもしれない。
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(了)
【中川康雄(なかがわ・やすお)】
表象・メディア論、及びコミュニティ観察。インディーズメディア「未来回路」。
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