1.スピードが私たちを在らぬ場所へ連れ去っていく時代
「理想は、私たちをもっとバカにではなく、もっと利口にする環境を生み出すための操作の対象のみならず、相互に作用しあう制度ともに協働していく、そういう世界である。」p.378
現代はハイスピードであることが前提となっている社会だ。そして、そこにはとても危険な罠がある。
なぜなら、それは人間の「理性」という能力を鈍らせたり麻痺させてしまうからだ。多くの人が、このスピードのとりこになり、同じような狡猾なウィルスに感染している。それは「ファストライフ」というウィルスだと言えるだろう。
そして、その状況は消費の現場だけの話ではない。政治的決定においても、そのウィルスは影響を与えている。「ファスト・ポリティクス」へと移行し浸透してきているのだ。それが本書における現状認識といえるだろう。
その「ファスト・ポリティクス」に対抗し、「理性」の能力を社会に活かす回路を強めること。それが本書における「啓蒙」というものになる。つまり、失われてしまった「理性」の社会的地位を、現代版にアップデイトした形で再起動する、ということなのだ。
2.本書が提唱する「スロー・ポリティクス宣言」とは?
そのためには、どうしたらいいのか。著者は、本書の最後の方で「スロー・ポリティクス宣言」なるものを掲げている。
そこで「理性」の地位の復活のために3つのステップが書かれている。
1つ目は、それを可能にする条件をよく理解すること。2つ目は、その条件を改善する方法を熟慮すること。そして3つ目は、改善をもたらすための集団行動に取り組むこと。
このようなステップを踏むことでしか、スピードに連れ去られることによって起こる「理性」の劣化効果を払いのけることはできない、というのが本書の主張なのだ。
3.消費と政治の場で起こっていることの共通点
つまりは「ファスト文化」という視点から、現代に消費と政治の場で起こっていることの共通点をみることができるのではないだろうか?
消費の場では、その商品が並ぶまでの過程が見えずらくなる。その商品を作り出すための産業のあり方や現場の痕跡は極力排除される。政治の場では、例えば10秒間でキャッチーなフレーズを連呼し、政策の内容ではなくイメージが支持される上での最重要なファクターになっている。
つまりは、市場で起きていることが、政治の世界にも起こり始めている、といえるのかもしれない。そして、その行き過ぎを食い止めることは、どうも並大抵のことではないようである。それほど根深い問題なのだ。
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(了)
【中川康雄(なかがわ・やすお)】
旅とWebとCultureと。もともとは現代思想やアンダーグラウンドカルチャーといった比較的抽象度の高いジャンルにいたり。関心領域は、Philosophy、Sociology、Media、Art、海外放浪、ソーシャルグッドなど。
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