【注意】この話は「ルパン三世 カリオストロの城」のストーリーを知っていることを前提にしています。
当然のようにネタバレが含まれますので、見たくない方はすぐにこのページを閉じてください。
また、録画したものなどを確認して書いているわけではないので、うろ覚えの点についてはご容赦願います。
1.
金曜ロードショーで放送されていた「ルパン三世 カリオストロの城」を見た。
もう何度も繰り返して見たので、正直見飽きた作品ではあるが、それでもテンポが良く見られるのは、それだけ作品構成が優れている証拠だろう。
で、今回なんとなく気づいたのが、敵役であるカリオストロ伯爵の目的である。
普通にぼーっと見ている限りでは、伯爵はクラリスを妻とすることによって、国の正式な大公となることであるかのように思える。もちろんそれも当然目的の1つではあるが、ならばなぜ伯爵はクラリスと同時に、あの指輪と財宝の謎に執着したのであろうか。僕は今まで、それを「まぁ悪役だし」と思って見ていた。でも、今回ちょっと違うのかなと考えた。
2.
ヒントになるのは劇中で、峰不二子が盗み聞きをする、伯爵と偽札技師の会話だ。
伯爵は「このところ質が落ちていくばかりだ」と嘆き、技師は「今のような大量生産を続けては」と言い訳をする。伯爵は「やり直せ、納期も遅らせるな」と突き返す。
この短い会話の中に、かつては世界中を裏で牛耳る力を持っていた偽札であるゴート札の凋落が見える。つまり各国の紙幣製造技術の進化に対し、ゴート札は少々遅れを取りつつあったのではないかと思われる。
ボトルネックが贋作師にあるのか、印刷機などの設備にあるのかは分からないが、公爵はカリオストロ公国の裏側を担ってきただけに、この国の権力の源がゴート札にあることを誰よりもハッキリ理解している。だからこそ技術の僅かな遅れをクリティカルに感じ取っていたのではないか。
そこで伯爵は、城に伝わる財宝を手に入れさえすれば、印刷技術の革新を推し進められると考え、財宝に執着したのではないか。
もし、伯爵が凡庸な人間であれば、遅かれ早かれゴート札の威信は地に落ち、あっさりと他国に潰されていただろう。これまでの歴史を考えれば他国からかっている恨みは相当なものに違いないのだから。
そうした意味で、もし国をクラリスが継いでいたとしても、その末路は悲惨なものでしか無かっただろう。国の暗部を負うには、お姫様は純粋すぎたのだ。
しかし、伯爵は才能のある人間であったから、先手先手を打って活路を見出そうとした。その結果として、自分の国を水没させてしまう結果にはなったのだが。
3.
あと、伯爵関係で気づいたこと1つ。
伯爵は、女たらしで卑怯な手を使う人物であるが、決して卑劣ではない。
その証拠としては、部下が幾度と無くルパン相手に失態を晒しているにもかかわらず、彼らを役職から追放したり排除していないからだ。
ルパンに騙されたジョドーとグスタフが落とし穴に落ちかけるシーンがあるが、カリオストロ伯爵はこれを笑って許している。仮に彼らを粛清したところで、事態は好転せず、自分の手駒が減るだけのことを理解しているからこそだろう。
ちなみに、落とし穴といえば、カリオストロの城では、アニメの悪役には欠かせない例の「突然開く落とし穴」が多用されているが、用いられるのは必ず、侵入者の排除においてのみである。アニメの悪役は、失敗した部下を粛清するためにこの穴を利用するが、カリオストロ伯爵はそうした用い方をしていない。
生まれる場所さえ違えば、カリオストロ伯爵は名君として讃えられた人物かもしれない。そう思えるほどに良い悪役だと、今更ながら気づいた次第である。
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【赤木智弘(あかぎ・ともひろ)】(@T_akagi)
1975年8月生まれ フリーライター。長きにわたるアルバイト経験を土台に、非正規労働者でも安心して生活できる社会を実現するために提言を続けている。『若者を見殺しにする国』(朝日文庫)。『当たり前をひっぱたく』(河出書房新社)。
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