「まるで居心地の良い居酒屋でも探すかのような。」、『メモリースティック』(九龍ジョー 著)

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メモリースティック  ポップカルチャーと社会をつなぐやり方

「あっ、昨日は九龍ジョーさんの著作の発売日だったな」。午前中の用事を終えた僕は16時に北千住で行われる演劇を観る前に、新宿の本屋に向かうことにした。

最初に行ったのは、よく新刊本を買いに行くブックファースト。西口の地下にあり、夜遅くまで開いているのでよく利用する本屋だ。いくつかの本棚をめぐり、目視では見つけられなかったため、店内においてある検索用の機械で本のタイトル名を入力してみるが、出てこない。続いて、著者名で検索したけれども結果は同じだった。仕方ないので、東口にある紀伊国屋書店へ。ここでは、新刊本のコーナーで平積みになっているこの本すぐに見つけることができた。

新宿からJR山手線で西日暮里まで行き、そこから千代田線に乗り換えて北千住へ。公演までに小一時間の余裕があったので、近くに居心地な良さそうなカフェがないか、食べログやRettyを参照してみる。少し繁華街から離れたところにある一軒家を改装したパンケーキが有名なカフェがあることを確認し、そこにGoogle MAPに導かれながら到着。パンケーキとコーヒーを注文し、カバンの中にしまったさっき買ったばかりの本を取り出して読み出した。数人しかお客のいない、古い木造の店の裸電球の明かりの下で。

読みながら、この書き手の置かれている心理状態などが気になってくる。この放浪感はディアスポラともいえるものなのか、本の構成上のゆえなのか。ゆっくりと、体験と思考の痕跡の糸をたどりながら、「ああ、これはあの感覚に似てるなぁ」と思いだす。

そうだ、これは隠れ家みたいな居心地の良い居酒屋やBARでも探しにいく時の、あの感覚に近いのだ。アティチュードとか熱量といったものの他に、何か貫くような直観めいたものがそこにあって、そこに勝手に身体がフォーカスしていく。なにか目に見えない源流のようなものを嗅ぎ取り、吸い寄せられていく。ここで重要なのは、それを自分の理論のようなものに、事物を落とし込むのではない、ということ。

これは、自らも動きながら読む本なのかもしれない。著者と読者の動く点同士が交差する場所としての本、チラッと横の人の様子を見るような、そのような感想を抱く本。16時から5分遅れて始まった演劇は、とある団地の一階の古びたテナント部分で行われた、旅と記憶に関するものだった。さて僕は、これから横浜中華街の鍋パーティに向かおう。

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九龍 ジョー
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(了)

【中川康雄(なかがわ・やすお)】
旅とWebとCultureと。もともとは現代思想やアンダーグラウンドカルチャーといった比較的抽象度の高いジャンルにいたり。関心領域は、Philosophy、Sociology、Media、Art、海外放浪、ソーシャルグッドなど。
Twitter:insiderivers
個人ブログ:https://insiderivers.com

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