最近、少し「エモさ」というものが、インフレを起こしているように見える。マーケティングとか、キャラ作りとか、仲間との共有するネタとして、とか。つまり、「エモさ」が一種の消費財のようになっているように感じられるのだ。
それらの意識的に作られた、正直ちょっと虚しさを感じる「エモさ」。それが溢れかえった激動の荒波の中にある日本社会。そんな中、天然の「エモさ」との出会いを求めるのなら、私は本書をお勧めることができるだろう。
著者の小野さんには何度かお会いしたことがある。一番はじめに出会ったのは、田端にあるシェアハウス「まれびとハウス」だったと思う。なんか遠距離恋愛の話をしてた記憶がある。
そしてその後、私が企画したイベント「ソーシャルネットワーク時代のシェアハウス」(2011年2月17日)で、まれびとハウス代表で登壇者として出演していただいた。あの時の坂口恭平さんとの衝突も今思うと、とても懐かしい。あの衝突もいつか解消できれば良いなと、個人的には思っている。
その何度かの面識の中で出来上がっていた著者へのイメージは、「ちょっと我が強いけど、仕事のできる人なのだろうなぁ」というもの。まぁ確かに、Twitterなどでたまに見かけると、「あれっ?また職場が変わったのかな。」ということはあったのだけれども、基本的にサバイバルには強いタイプという印象を持っていたのだ。
しかしその著者が、穴に落ちるマリオのような状態に陥り、パニック障害にもなっていたとは。本書を読むまではまるで知らなかったことだった。
そこで分かったことは、巷に溢れ返る「エモさ」と著者の「エモさ」の違いだ。それは自分の家族や人生の問題に直結しているかどうか、というところにある。その取り替え不可能な物語や課題を中心に据えて生きること。それが「エモさ」の源泉となっているのではないだろうか。さらにそのただでさえ「エモい物語」に、「メンヘラ」ゆえの爆発的なエネルギーが注ぎ込まれている。それで面白くない訳がない。
著者がスペイン巡礼の旅の中で出会った言葉「マオ・レゾルビーダ(未解決の人間)」。この「自分の家族や人生の悩みを解決していない人間」という意味を持つ言葉は、多くの人たちに突き刺さるのではないだろうか。
読み終わってしまうことが、少し寂しくなるような本だ。
幻冬舎 (2015-02-10)
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(了)
【中川康雄(なかがわ・やすお)】
旅とWebとCultureと。関心領域は、Philosophy、Sociology、Media、Art、海外放浪、ソーシャルグッドなど。
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