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「ここじゃないどこかへ」。
なんて言葉が孕んでいる感情は、すでにレトロで懐古主義な印象すら人々に与える。それは、「いまここ」や「マインドフルネス」といった思考傾向が、現代の日本が行き着いた歴史・社会的構造の帰結のようにみえるのと、おそらくはシンクロしているのだろう。そんな中、自分の「生き場」を探して放浪するなんていうあり方も、一見、ロマンティックな幻想に取り憑かれているように思われるのも無理もないことだ。
けれども、本書で紹介されている海外で暮らす日本人たちは、偶然に偶然が重なった結果とはいえ、すでにもう「そうでしかありえなかった」ような人たちだ。そこには憧れや幻想といったものがあるのではなく、そうではなくて、「そうならざるをえなかった」という断念や諦念を自らの「生き場」として繋げていく姿がある。
本書は、発売からすでに約5年の月日が経っている。しかし、ここで描かれている海外で生活を送っていく日本人たちの姿から透けて見えてくる日本の姿は、今も変わっていない。いや、むしろ、状況は加速度的に進んでいるといえるだろう。
彼らと日本社会は、どんなに遠くに離れたとしても、コインの裏表のように引き裂けない関係にある。そこに鳴り響いているのは、日本社会が置き忘れていったものの存在の痕跡だ。それを回収していくのか、更に忘却の淵へと追いやるのか。その先は知る由もないが、ただ、その存在を感じ取ることなくしては、その重要度を精査することもままならないということはだけは、確かなことなのではないだろうか。
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