母国語をまるで外国語のように書くこと。私が「文学」というものの特性を考えた時、それはとても重要なエッセンスとなる。しかし、それは「小説」などの特定のジャンルに拘束されることのないものでもあるだろう。例えば、エッセイのようなものでもその「文学」性というものは露呈する。そのエッセンスはメディアによって表象され、痕跡としてその姿を表すのだ。
言葉というものは呪術的なものでもある。その言葉を読んだり聞いたりした以前と以後では徹底的に何かが変わってしまう。目に見えないはずの他人の思考の痕跡や道筋がそこに見えてしまうことで、言葉が読み手を支えている有機的な情報空間に関与しだす。そこには、人間の認識には複数の立脚点が可能であることを直感的に知ることのできる空間がうっすらと口を開けている。
その複数の立脚点の存在とそれを成り立たせている複数のロジックを捉えることは、ちょっとレトロな言い方をすれば「教養」というものと昔呼ばれていたものを手に入れるということでもあるだろう。その言葉はまた、今風に言い換えると「他者への想像力」と言い換えることもできるものかもしれない。
その想像力は、「スピード」を至上命令とする社会において、とてもゆっくりとした速度しかもたないようにみえるものだ。けれども、その速度の違いというものを複数化していくことの中に豊かさをみつけていく作業。その中に、機能というものを捉われない「自由」も存立しているのではないか。そして、そこから新たな空間が芽吹いていく。
本書を私は、ベトナムのホーチミンという街のとある本棚で読むことになったのだが、読みながら異邦人としての自分と書き手の旅がシンクロしてしまっていた。どこにいても異邦人であること。それはおそらく、これからもずっと続いていくのだろうという覚悟のようなものでもある。
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