人間の行動を形作る価値観や、それに基づく習慣の総体としてのライフスタイルは、時代や場所による環境によって変化するものだということに、異論を唱えるものは少ないだろう。例えば、経済や政治の状況によってその生活が規定されることもあるだろし、また、テクノロジーの進化も様々な制約を解除したり作り上げたりしていくことは、特にインターネットの出現などを目の当たりにした世代にとっては、実感があるのではないだろうか。
しかしそのような変化の多くは、生き物としての人間すべてがすぐに適応できるほど緩やかでゆったりとしたスピードの変化ではない。その急激な変化についていけるものとついていけないものが生まれることは、簡単に想像することができる。生物の物理的な進化のスピードを、(本書でも言及されている)文化的遺伝子「ミーム」は遥かに凌駕していく。また、一人の人間の認知限界を超えたスピードで、情報やシステムは膨張していく。
そして、その環境の急激な変化との個々の人びとの間に生まれる摩擦や、またはその適応の現場において、種としての人間の比較的ロングスパンなライフスタイルのあり方というものがみえてくることがある。そんなライフスタイルが、本書で描かれていると言っていいだろう。それは人類史上、脈々と受け継がれている「文化」にも接続されている。
「無理をしない」ということの正当性をロジックで示そうとする時、そこに言葉が注ぎ込まれ、「文化」に接続される。つまりそこに、「普遍性」のようなものが浮かび上がってくるわけだが、本書はそれにしっかりと触っているのだ。また、先行している研究やその成果などから生まれる言語のみによる思想や理論ではなく、実践と実感(「実存」といってもいいかもしれない)に基づいた体験談でもあることが、本書の重要なポイントのひとつといえるだろう。
その意味で、本書は結論というよりも、経過報告のようなものだ。現代の生きることがつらそうな人たちの戦果のようなものということができるのかもしれない。これがひとつのライフモデルとして社会における選択肢のひとつとなるには、あと20〜30年くらいかかるのかもしれない。それは少し残酷な見方をすると、炭鉱のカナリアのような役割を結果的に果たすのかもしれない。
「普通」から外れてしまった人々の民間におけるセーフティネットをどのように考えるのか、という問いの中を本書は生きている。そのような現代的な問いと、人類の文明の進化とそれを享受するはずの人々の持つ苦との間にある矛盾に対する問い。この2つの問いがクロスするところに、本書は位置付けられるのではないだろうか。
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