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野宿をすると、人間のもつプリミティブな感覚を呼び覚まされるような気がする。その理由は、建物のなかで睡眠をとるということが、あまりに当たり前のことになっているからだ。この地球上で暮している生物は、さまざまな巣を持っているが、人間ほど建築物のなかで眠ることに固執している生物は、そんなにもいないのではないだろうか。
野宿をすることは、そんなこの私たちの住む世界を別の視点からみてみることにもなる。それは先入観からの解放にもつながって、人間はどこにでも寝ることができるんだ、という肯定感もそこには生まれてくるのだ。それは、生きていることへの賛歌のようなものでもある。
「ヒトは建物のなかで眠るもの」という先入観は、なんとしても寝るための空間を手にいれることを多くの人間たちに強いる。それが生きづらさを形作る要因のひとつにもなっているし、そのために、私たちは日々働いているともいえるし、それが経済活動の原動力のひとつでもあるわけだ。しかし、そのような脅迫観念のようなものも、じつはそれほど絶対的なものではないことを野宿は教えてくれる。
だがそれと同時に、野宿のもつ快楽というものがあることをこの雑誌は伝えてくれている。野宿には野宿自体がもつ快楽というものが存在しているのだ。
今回の特集(のようなもの)は「トイレ野宿」。基本的に公衆トイレは建物なので、厳密な意味では野宿ではないが、一般的に寝ない場所で寝るという点においては一貫している。雨風を防ぐという点においては、非常に合理的な野宿のスタイルでもある。トイレという場所と寝る場所というものの間に横たわる距離が、私たちにドラスティックな意識の転換を迫ってくる。公衆トイレを宿泊施設として使うことは、私たちにさまざまな感情を引き起こす。衛生観念が揺さぶられ、私たちのもっている世界のゲシュタルトが変化していく。
本誌のキャッチコピーは「人生をより低迷させる旅コミ誌」。もうすでに低迷してしまっている人も、今から低迷する予定の人も、一見しておく価値があるだろう。これがKindleで読める時代になったことを嬉しく思えた。実際、世界には野宿をする人で溢れている。野宿という観点で世界を眺めることには、私たちに新たな世界観を提供してくれるだろう。
(了)
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