「自然と文化をシームレスにつなぐ進化とフィクション」、『ヒトの目、驚異の進化』(マーク・チャンギージー 著)

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1. ヒトの視覚進化と肌の色の関係

ヒトの持つ知覚の中でも大きな情報源となっている視覚は、肌の色が持つ情報を深く読み取れるように進化している、というのが本書を読んでいく上でのファーストインパクトだ。さらに、視覚は現在を直接的に読み取るものではなく、未来を予見した上でその情報を利用して間接的に現在を知覚する、という指摘も興味深い。

そのように進化した理由は、そのほうがヒトが置かれてる環境の中で生存に有利だったためだ。

2. ヒトの視覚は未来を先取りする

ヒトの視覚情報は、様々なフィクションを実装化してデフォルトにしている。たとえば、私たちは正確に現在を見ているように錯覚しているが、実際にはそうではない。そのことが実体験として経験できる現象が「錯視」だ。その予測した未来と実際に到来した未来が異なる場合、そこに「錯視」が起こる。この現象は、ヒトの目がただ現在を正確に目の前のものを把握するだけではないことを顕著に示すものだ。

いわゆる「目の錯覚」は、目が起こしているトラブルではなく、むしろ正常に働いていることの査証でもあるのだ。

3. 視覚進化の方向性は「文字」の形も規定している

ヒトの視覚進化の方向性は、ヒトの文化・文明の形成にも大きな影響を与えている。たとえば、私たちが生み出した文化の基盤のひとつでもある「文字」のかたちも、その進化の過程に規定されている。「文字」は目ができるだけうまく処理できるよう形作られていて、これは古今東西、ヒトが形成する集団の中で共通している。

ふだん私たちは、視覚から得た情報をまるで客観的な事実のように認識している。だが、ヒトの目に知覚される世界の姿はその進化の方向性に規定されているのだ。言うなれば、私たちが自明としている「赤」や「青」、「緑」といった色彩の世界も主観であって、ひとつのフィクションですらある、ともいえるだろう。

ヒトは世界の見え方の角度を設定し、それに独自の色彩と輪郭を与えてきた。フィクションは、文化の発達の中で生まれたように思われがちだが、視覚進化の過程の中に最初から抜きがたく組み込まれている。ここに自然と文化をシームレスにつなぐ世界観が成立し、その提示が本書の大きな魅力のひとつとなっているといえるだろう。

ヒトの目は常にフィクションを幻視しているのだ。おそらく、それがヒトにとっての最適解だったのである。

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Yasuo Nakagawa
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