Share this...
Tweet about this on Twitter
Twitter
Share on Facebook
Facebook
この記事の所要時間: 217

貧乏人の経済学 - もういちど貧困問題を根っこから考える

 人生のスタート地点は人それぞれだ。生まれや置かれる場所によってそれそこ天と地ほどの差が生まれる。それは日本においても例外ではない。

 人生を100メートル走で例えるとすると、スタート地点がどこなのかさえわからずに彷徨っている人もいるし、生まれた時にすでに50メートル当たりであと残り半分を如何にエレガントに走るかだけを考えている人だっている。

 もちろん、本書でテーマとされている「貧乏人」とは前者の人たちが中心となるだろう。

 この『貧乏人の経済学』は世界の貧困と戦う方法について教えている。その中で、貧乏な人を助けるはずの多くの努力を蝕んでいるものとして、「3I」問題と呼ぶものを挙げている。

1.イデオロギー(ideology)
2.無知(ignorance)
3.惰性(inertia)

 ここで一貫して主張している哲学は、「細部を見過ごさず、人々の意思決定方法を理解して、実験を恐れず」ということ。つまり、ひとつひとつ細かく見ていき、それをフィードバックしながら実践していくということだ。あらゆる問題を同じ一般原理に還元してしまう紋切り型の発想をやめ、「下からの眺め」に注目することの重要さを説いている。

 本書を読んでいて、世界のフェアさや貧困問題の解決が進んでいることを実感させられたのは、バングラデシュのグラミン銀行が起源と言われているマイクロ金融についての記述だ。この仕組みは、貧困状態にある人々が個人事業に従事し、収入を得て、貧困を脱することを可能にさせているのだが、その成功と共に次の目標が見えてきている。それは中規模企業への資金提供手法を見つける、ということだった。

 このように、現場における必要性から立ち上げられた仕組みが成功し、次の課題が見えてくる、ということ。「下からの眺め」を積み上げていくことによって社会を作っていくことが、結果的に豊かでフェアな世界を作っていく上での近道になる。

 貧困問題を解決することは、「可哀想な人」を助ける慈善事業とイコールではない。それは人の尊厳を守ることと同時に、この世界を再構成していくことなのだ。そのことは、存在するリソースを本人が望めば活かすことの出来る世の中を作ることにも繋がる。

 より善い世界を構築していくことへの意志を絶望で終わらせないために、本書ではその力をダイレクトに作用させるための手法が描かれている。通読する価値はあるだろう。

 

【中川康雄(なかがわ・やすお)】
文化批評。表象・メディア論、及びコミュニティ研究。
未来回路製作所主宰。
個人ブログ:https://insiderivers.com

Popular Posts:

Share this...
Tweet about this on Twitter
Twitter
Share on Facebook
Facebook