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バースト!  人間行動を支配するパターン

 大量のライフログからなるビッグデータ、その分析から人間の行動パターンが見えてくる。

 一昔前であれば、人間行動について学ぼうと思えば心理学を専攻したかもしれないが、今後、そのフィールドは主にコンピューター科学の領域となるだろう。詳細に見れば見るほど、人間行動は広く適用される法則に支配されていて再現可能なパターンにしたがっていることが明白になってきているのだ。

 本書は、2年前に発表されたアルバート=ラズロ・バラバシの著作『Bursts』の翻訳である。タイトルの「バースト」とは、短時間に何かが集中的に行われ、その前後に長い沈黙の時間が存在するパターンのことを言う。私たちの行動は一見ランダムにも思えるが実はそうではない。けれども、そこにある規則性やパターンを見つけ出すには、大きな壁が立ちはだかっていた。その壁を乗り越えるためには、膨大なデータが蓄積され、それを取り扱う方法が必要だったのだ。そして現在、その膨大なデータと解析方法、その両方が人間の手の元に存在している。

 そこで発見された「ベキ法則&バースト」という普遍的パターンの発見と「重要度」にもとづく「優先順位付け」モデルの提案は、ポアソン的なランダム性を脱却させた。それは人間行動を捉える新たな枠組みへのパラダイム転換と呼べるものだろう。また、これらの法則やパターンは人間のみに留まらない。

 人生をアインシュタインように「サイコロ遊び」やフォレスト・ガンプのように「チョコレートの箱」にたとえるのをやめよう、とバラバシはいう。人間は自動操縦で動く夢見るロボットなのだと考えるほうが真実に近い、と。

 人間もまた水に浮かぶ微粒子とさほど違わず、微粒子の動きと同じくらい不可思議な理由に突き動かされている。だが、人間は目に見えない微細な原子に突き飛ばされているのではなく、自分では感知できない神経細胞の明滅によって突き動かされ続ける。この明滅をわれわれは義務や責任や動機として解釈するのだ、と。

 けれども、それは1人の人間の存在を貶めるものではない。私たちの人間観や世界観が変更に迫られている、というだけなのである。むしろ、開けられていなかった箱の中身を知ることを有益な方向へ転換しなければならない。

 確かに人間の存在なんてこの宇宙全体からしたら微弱なパルスのようなものだ。けれども、その小さなパルスのような存在は、どんなに数量化・パターン化されていようとも、唯一性、一回性を孕んでいるものでもある。その前提の上で、ビッグデータと分析結果を個人や社会に還元していくことを考えなくてはならないだろうし、それがこれからのテーマになるだろう。

 この先には、ライフログを巡るプライバシーの問題やそのビッグデータの使用方法や管理方法など多くの問題も孕みつつも、未だ私たちがみたことのない社会の到来がほのめかされている。

 

【中川康雄(なかがわ・やすお)】
文化批評。表象・メディア論、及びコミュニティ研究。
インディーズメディア「未来回路」主宰。
個人ブログ:https://insiderivers.com

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