1.「海賊」と資本主義
本書でいう「海賊」とは、代価を支払ったり使用許可を得ることなく、他人の創造的資産をコピーしアレンジし勝手に広める人たちのことだ。そして、それらの行為は、主にオープンソースの理想のもとで行なわれている。
オープンソースの理想は、デジタルによる共産主義だと思われがちだが、実際にはその逆だ。それは市場での競争を活性化させ、非効率的な独占状態から新しい公平なエコシステムへの移行を促す。
境界線を壊し新たな境界線を引き直すことが社会の中で希求される時、「海賊」たちはその先陣を切っていくのだ。
彼らは、確かに資本主義をハッキングしようとしている。けれども、それは破壊のためにそうしているのではない。むしろ、資本主義が沈まないように制度面での弱点を克服し、資本主義社会を前に進ませる機能すら果たしている。
その具体例として、「リミックス」や「グラフィティ・アート」、「ヒップホップ」などの手法や文化を取り上げ、それらが如何なる歴史を歩み、社会の中でその役割を演じてきたかを浮き彫りにしていく。
文化は資本主義へ反抗し続け、それを改良する手段を模索し続けてきた。本書はその現代史と読むことも可能であろう。それはある意味で皮肉とも取れるかもしれないし、また可能性とも取れるのかもしれない。
2.「海賊」とアクチュアリティ
組織や制度がよりオープンになり人々の結びつきが強まってくると、次に重要になるのは人々を引きつける力だ。現在では、ただ結びつくというだけでは充分ではなくなっている。制度側とその利用者が真剣にコミュニケーションし合う場を持つことが重要になるのだ。
そのような背景の中でも、「海賊」のように振舞うことは、一般的に思われているのとは反対に、公共の利益に奉仕し、人びととの間に真剣な結びつきをつくる優れた方法となってくる。そこに「海賊精神」のアクチュアリティがあるといえるだろう。
「海賊精神」は、コミュニティを形成・動員して、社会に変化を生み出す方法でもあるからだ。
3.可能性の萌芽としての「海賊」
震災が起こってから一年半ほど経たこの日本において、これまでの成功体験に頼ったやり方を続けていくだけでは近い将来どうにも立ち行かなくなるのは目に見えているにも関わらず、様々なシガラミの中で社会システムは再びほとぼりが冷めたように、パラダイムシフトを拒む力が強まっていると感じることが増えてきた。あの深刻な震災の後ですら、そうなのだ。だが、このような状況であるからこそ、「海賊精神」は強く求められるのではないだろうか。
この日本という国はその歴史の中で、強力な外圧でしかそのシステムを大きく改変することはできなかった。それはもはやこの国のエートスともいえるものなのかもしれない。
そのエートスを受け入れ利用しつつ別の回路を開こうとするのも戦略の一つとしてありえるだろう。だが、内側から変わってゆく芽もまた生まれてきているのだ。一見異物のようにも見えるそれらを如何に重要な資産として認識し育てていくのか。そこに日本の未来の少なくとも一部は託されているのかもしれない。
【中川康雄(なかがわ・やすお)】
文化批評。表象・メディア論、及びコミュニティ研究。
インディーズメディア「未来回路」主宰。
個人ブログ:https://insiderivers.com
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