1.ウェブとDIY、2つの文化の融合
本書では、製造業における「これからの10年」についてが語られている。
製造業は、様々な産業の中でも大きなシェアを持つ領域だ。例えば、アメリカ経済の4分の1はモノを作ることで成り立っており、そこに流通や小売の売り上げを加えれば、経済全体の75%にもなるという。
その巨大な産業が大きく変わろうとしているのだ。その変化の源には、ウェブの中で培われてきた文化が存在する。
新しいメイカームーブメントの特徴は、以下の3つだ。
①デスクトップとデジタル工作機械を使って、モノをデザインし、試作すること(デジタルDIY)。
②それらのデザインをオンラインのコミュニティで当たり前に共有し、仲間も協力すること。
③デザインファイルが標準化されたこと。おかげで誰でも自分のデザインを製造業者に送り、欲しい数だけ作ってもらうことごできる。また自宅でも、家庭用のツールで手軽に製造できる。これが、発案から起業への道のりを劇的に縮めた。まさに、ソフトウェア、情報、コンテンツの分野でウェブが果たしたのと同じことがここで起きている。
ウェブ文化とDIY文化の融合。これから現れる製造業における新しい潮流は、そのような特徴を持ったかたちでシェアを拡大していく。
「これまでの10年」は、ウェブ上で創作し、発明し、協力する方法を発見した時代だった。そして、「これからの10年」は、そこでの成果をリアルワールドに当てはめていく時代になっていくのだ。
2.「モノのロングテール」へ
今まで、物質的なモノの品揃えが限定的だったのは、3つのボトムネックがあったから。
①大量生産に見合うこと
②大量流通に見合うこと
③消費者の目にとまること(広告、または最寄り店舗での販促を通して)
この3つの関門を無事くぐり抜けた品物だけが、消費者の手に届くことになっていたのである。
だが、ウェブや3Dプリンタなどの技術が一般化し普及するようになると状況は大きく変わってくる。モノを製造するにあたって、この3つの条件に適う必要性がなくなってくるのだ。
つまり、今後、大量生産には向かない製品の市場が拡大していくと予測される。「モノのロングテール」の時代の始まりである。
以下の動画は「3D printer」の参考としてどうぞ。

3.マーケティングとクラウドファンディング
オープンソースのコミュニティにおける創作活動は、上手くいけばとても効率がいい。より速く、より安く、より良く開発されるだけでない。その創作過程において、すでに製品の市場調査が済んでいるのだ。
例えば、KickstarterやCAMPFIREといったクラウドファンディングサービスは、クリエイターにとってのプラットフォームとしても機能している。そこはただの資金調達の手段でなく、市場調査のプラットフォームでもあり、今までのマーケティングでは見過ごされていたような需要を見つける場でもある。
つまり、クラウドファンディング上でクリエイターたちが行っている「パブリックなもの作り」は、製品開発とマーケティングとを兼ねたものとなっている。そのことによっても、製品が消費者に届くまでのプロセスを大幅に改変することに成功しているのだ。
4.テクノロジーの民主化
このような技術革新に基づく変化は、モノづくりの世界に大きく影響を与えていく。しかし、20世紀における大量生産・大量消費の方法がすべて駆逐されるわけではないだろう。その方法にも主にコスト面でメリットがあるからだ。
やはり、この新しいメイカームーブメントによるシェアは広がっていくことは確かであろうが、その両者の生産方法と消費のあり方が、今後、どのような関係を築いていくのか興味深い。
最先端のテクノロジーが出現するだけでなく、それが民主化されることが本当の革命なのだ、と本書では述べられている。
生産手段がほぼ完全に個々人に行き渡った世界。そのような世界が私が生きている間に実現することは、なかなか想像が難しい。けれども、その世界の片鱗をそこここに感じとることのできる時代には、私たちは確かに生きているとは言うことができるだろう。
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関心を持たれた方におすすめ。
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【中川康雄(なかがわ・やすお)】
文化批評。表象・メディア論、及びコミュニティ研究。旅人属性。
インディーズメディア「未来回路」主宰。
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