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1.ゾンビ的な何かと国際関係論

 

もしゾンビが蜂起したら、どのような対処が有効なのか。
そんな一見すると、荒唐無稽とも思える設定を国際関係論の立場から考えた本だ。ネタのようなタイトルとテーマではあるが、これが実に非常に真面目な結論に至っている。

公共政策の観点からみた時、ゾンビという現象はヴァンパイアなどといった他の超常現象にはないそれっぽさがある。
例えば、パンデミックや災害、バイオテロやサイバーテロなど、ゾンビからの攻撃に類似すると思われる出来事は、実際に存在しているのだ。

 

2.ゾンビと安全保障

 

ゾンビに関する伝統的な物語は、比較的小さなコミュニティか家族を想定している。そこでは各国政府や国際関係の影響はほとんど議論の対象とならない。
けれども論理的に考えれば、ゾンビ現象は何らかの政策的対応を提起するものだ。

一国の安全保障に関連すると思われるゾンビ現象の想定は以下の3つである。

①ゾンビは、人肉に対する欲望を抱く。彼らは、他のゾンビを食さない。

②ゾンビは、脳を破壊しない限り、殺すことができない。

③ゾンビに噛まれた人間は、ゾンビになることを避けられない。

本書ではこのような想定のもと、安全保障の政策的対応の予測が展開されている。

 

3.ゾンビと政治的立場

 

本書では、ゾンビ現象を想定した時に生ずるであろう様々な政治的立場における政策的対応を以下のように予測している。

・リアリズム
→アンデッドとその他の者たちとの間で、最終的には「互いに許し合って生きてゆく(live and let live)」ことを想定する。

・リベラル
→不完全ではあるが有益な対ゾンビ・レジームを予測する。

・ネオコン
→攻撃的かつ徹底的な軍事的展開こそが、アンデッドの脅威を寄せ付けないと信じる。

・構成主義
→新たなゾンビ・アウトブレイクを予防し、既存のゾンビを人間社会へと社会化しるための、強靭な多元主義的安全保障コミュニティを予測する。

・様々や機関
→初期の対応において過ちを犯すかもしれないが、それらはまた、状況に対して適応もし、また失敗を克服しもする。

・個人
→リビング・デッドに対して攻撃的な政策的対応を取るように思考がセットされることになるだろう。

伝統的なゾンビに関する物語は、すぐにこの世の終わりへと至ってしまう。けれども実は、ゾンビの脅威に対して精力的な政策的対応は可能なのだ。

 

4.現代における国際関係論の欠点

 

このような分析は、標準的な国際関係論のパラダイムの欠点を明らかにしている。
国際関係論は、常に国家を前提として始まる。ほとんどの国際関係理論は国家主義的なのだ。けれども、新型の感染症やサイバーテロなど、ゾンビ的な現象は国家から生じたものではない。

つまり、現在の国際関係理論は、21世紀の安全保障問題に対応しきれていないのだ。それが本書の結論となっている。

以下、目次。

まえがき

第1章 アンデッドへの…イントロダクション
第2章 これまでのゾンビ研究
第3章 ゾンビを定義する
第4章 食屍鬼についての本筋から外れた議論
第5章 リビング・デッドのレアルポリティーク(現実政治)
第6章 リベラルな世界秩序の下でアンデッドを規制する
第7章 ネオコンと死者たちの悪の枢軸
第8章 ゾンビの社会的構築性
第9章 国内政治…すべてのゾンビ政治はローカルか?
第10章 官僚政治…ゾンビにまつわる“押し合いへし合い”
第11章 人間だもの…アンデッドに対する心理学的反応
第12章 結論…ってゆうか、そう思うでしょ?

謝辞
ゾンビ研究事始(谷口功一)
参考文献

以上。

【中川康雄(なかがわ・やすお)】
文化批評。表象・メディア論、及びコミュニティ研究。旅人属性。
インディーズメディア「未来回路」主宰。
毎週月曜日に自宅ブックカフェやってます。
Twitter:insiderivers
個人ブログ:https://insiderivers.com

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